窓から見える樹は、先日まで雪のように枯葉を降らせていて、子供達の絶好の遊び場になっていたのだが、今朝見るとほとんど葉が落ちて枝ばかりになっていた。向こう側が全部透けて寒々しい。
枯葉を踏みしだいてB先生のバレエ教室に行く。結局、今週は週に4回お稽古してしまった。毎日でもいいなと思い始めている。空想的な性格ゆえのやり切れなさを、踊りは指先から逃がして楽にしてくれる。話は関係ないが、首の太さと頭脳的な持久力の関係は比例していると本で読んだ事がある。猪首、の人は物事をいつまでも追いかけて考え続ける傾向があるのだとか。与太話を真に受けたのかも知れないが、バレエを始めて首を長ーく伸ばす機会が増えてから、同じ事を考え続ける力が若干減った気がする。
字を書く作業の拠り所は、自分の個人的な考えとして、自分の感じる苦痛を信じる、という始点から始まっているように思える。よくよく考えて、字の世界と体の世界が反発するのかどうかを解明かしたい。
午後からは、保護者会とPTA学年役員会に連続で参加。ソーシャルスキルの講習が関係あるかは判らないが、公共の場が過ごしやすくなった。お母さん達が10人位かかってきても平気だ。なんて大嘘がつける程、落ち着いた。夕方暗くなってから身仕度を済ませ、娘の手をひいて二週間ぶりの茨城へ。
枯葉を踏みしだいてB先生のバレエ教室に行く。結局、今週は週に4回お稽古してしまった。毎日でもいいなと思い始めている。空想的な性格ゆえのやり切れなさを、踊りは指先から逃がして楽にしてくれる。話は関係ないが、首の太さと頭脳的な持久力の関係は比例していると本で読んだ事がある。猪首、の人は物事をいつまでも追いかけて考え続ける傾向があるのだとか。与太話を真に受けたのかも知れないが、バレエを始めて首を長ーく伸ばす機会が増えてから、同じ事を考え続ける力が若干減った気がする。
字を書く作業の拠り所は、自分の個人的な考えとして、自分の感じる苦痛を信じる、という始点から始まっているように思える。よくよく考えて、字の世界と体の世界が反発するのかどうかを解明かしたい。
午後からは、保護者会とPTA学年役員会に連続で参加。ソーシャルスキルの講習が関係あるかは判らないが、公共の場が過ごしやすくなった。お母さん達が10人位かかってきても平気だ。なんて大嘘がつける程、落ち着いた。夕方暗くなってから身仕度を済ませ、娘の手をひいて二週間ぶりの茨城へ。
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電車に乗ってI駅へ。東武の玩具売り場で、娘が幼稚園に通っていた頃のお母さん友達と待ち合わせる。時間に律儀なOさんは、約束の10分前に着いた律儀な私よりさらに先に着いていて、二歳のお子さんを遊ばせていた。
子供達が卒園しても、たまには会いたいねと話していたのだけど、そのたまに、が曲者で、そのうちと思う間に二年も経っていた。私はOさんにはいつも降参してしまう。ご本人は非常識をよしとしない人なのだけど、時折大胆なことをする人だった。臨月の時に乗用車を運転して、シートベルトが出来ないのと言って、私を驚かせた。貧血に青ざめた顔にも笑みをたやさず、120パーセント全力で多忙な生活をこなしていた。私はそういう女性がとても好きなので、会う機会がなくなった後も、園生活の中でもっとも印象に残った女性として、時折思い返していたのだった。
その時の赤ちゃんが女の子に育って、私を人見知りしてじーっと見ている。デパートの中を歩き回って、金魚や亀の売り場を覗きながら、互いの近況などを話す。元々研究者だったOさんは、やることの筋はきちんと通っているのだが、不思議な浮遊感のある話ばかりする。家中の電化製品が次々と故障していく話をしながら、Oさんはおっとりと歩いている。花のような人だと会う度に思う。自分は草のような人だけど。
屋内レストランで一緒に洋食を食べながら、二年の空白があっさり埋まったのを嬉しく思う。また会いたいね、と約束して軽く手を合わせた。別れた後、男性のようにポケットに手をつっこんで歩きながら、いけないと思って手を出し、少し優しげに歩いてみた。
子供達が卒園しても、たまには会いたいねと話していたのだけど、そのたまに、が曲者で、そのうちと思う間に二年も経っていた。私はOさんにはいつも降参してしまう。ご本人は非常識をよしとしない人なのだけど、時折大胆なことをする人だった。臨月の時に乗用車を運転して、シートベルトが出来ないのと言って、私を驚かせた。貧血に青ざめた顔にも笑みをたやさず、120パーセント全力で多忙な生活をこなしていた。私はそういう女性がとても好きなので、会う機会がなくなった後も、園生活の中でもっとも印象に残った女性として、時折思い返していたのだった。
その時の赤ちゃんが女の子に育って、私を人見知りしてじーっと見ている。デパートの中を歩き回って、金魚や亀の売り場を覗きながら、互いの近況などを話す。元々研究者だったOさんは、やることの筋はきちんと通っているのだが、不思議な浮遊感のある話ばかりする。家中の電化製品が次々と故障していく話をしながら、Oさんはおっとりと歩いている。花のような人だと会う度に思う。自分は草のような人だけど。
屋内レストランで一緒に洋食を食べながら、二年の空白があっさり埋まったのを嬉しく思う。また会いたいね、と約束して軽く手を合わせた。別れた後、男性のようにポケットに手をつっこんで歩きながら、いけないと思って手を出し、少し優しげに歩いてみた。
空を見上げると、鳥。
昨日、縄跳びを買う時に見た黒い川は、午前中の弱い光を受けている。今朝は覗きこむのを止めた。私はうまく考えられる時と全く考えられない時の差が大きいようだ。意志の弱さや女性的な周期、体調、環境、様々な要因があるとは思うが、しかしこの統一感の弱さは字を書く人間として致命的である。
どうして出来ないのか、何が原因なのか、と一旦思い始めると、世界は鏡面になってしまい、全て自分の歪み具合を映す様になってしまう。目の前の出来事に驚かされる瞬間は、そう頻繁にある訳ではない。だから、全てを詐欺にしないように、考えられない日も書く練習だけは続けようと思う。
一日でも怠慢していたら、自分が何を考えていたのかすら、判らなくなってしまう。だから今日は、半分の詐欺で収まって欲しいと願う。
昨日、縄跳びを買う時に見た黒い川は、午前中の弱い光を受けている。今朝は覗きこむのを止めた。私はうまく考えられる時と全く考えられない時の差が大きいようだ。意志の弱さや女性的な周期、体調、環境、様々な要因があるとは思うが、しかしこの統一感の弱さは字を書く人間として致命的である。
どうして出来ないのか、何が原因なのか、と一旦思い始めると、世界は鏡面になってしまい、全て自分の歪み具合を映す様になってしまう。目の前の出来事に驚かされる瞬間は、そう頻繁にある訳ではない。だから、全てを詐欺にしないように、考えられない日も書く練習だけは続けようと思う。
一日でも怠慢していたら、自分が何を考えていたのかすら、判らなくなってしまう。だから今日は、半分の詐欺で収まって欲しいと願う。
夜、娘の連絡帳をチェックすると「明日もってくるもの。なわとび」と下手な字で書いてあった。何これ?と聞いたら、ママ買ってあるよね?と言う。ないよ。お店はもう閉まってるから、明日買って学校に届けてあげる、体育は何時間目?1時間目。娘は先生に怒られるう、と繰り返す。近所で一番遅くまで営業しているディスカウントショップで、おぬまさんが縄跳びを以前見たような気がする、と言う。私が以前見た時はなかったような気もする。仕方なく外出着に着替えて、確信もないまま縄跳びを探しに外へ出た。
生活は先手を打たないと、こういう面倒なことになる。身の縮む寒さだった。コンクリートに挟まれた真黒い川を見る。音もしなくて怖かった。欄干に沿って歩くと、川の流れより私の歩く速度の方が若干早い。夜にすれ違うジョギングの人が、さらに黒い水を追い抜いていった。
足早に橋を渡り、店の明かりに近付いていくと、外套を着た中年の男性客がきつい目で自分を睨んだ。歩く速度を変えないで店内に入った。かなりお買い得な品々の間をすり抜けて、早足で歩いて玩具コーナーの前に立った。よかった。たった一つだけぶら下がっていたのは、黄色い縄跳びだった。
生活は先手を打たないと、こういう面倒なことになる。身の縮む寒さだった。コンクリートに挟まれた真黒い川を見る。音もしなくて怖かった。欄干に沿って歩くと、川の流れより私の歩く速度の方が若干早い。夜にすれ違うジョギングの人が、さらに黒い水を追い抜いていった。
足早に橋を渡り、店の明かりに近付いていくと、外套を着た中年の男性客がきつい目で自分を睨んだ。歩く速度を変えないで店内に入った。かなりお買い得な品々の間をすり抜けて、早足で歩いて玩具コーナーの前に立った。よかった。たった一つだけぶら下がっていたのは、黄色い縄跳びだった。
雨交じりで肌寒い。震えながら傘を差して小学校へ行く。申し込み制のソーシャルスキルトレーニング(SST)講習会に参加した。成り行き上、受講しに来てしまったが、かなりの不安を覚える。
ソーシャルスキルとは社会的な場での対人関係処理能力を差すらしく、挨拶、御礼、謝罪等などの基本的態度や、相づち、目線、表情などの非言語コミュニケーションなどをあらためて学び直すことでスキルアップを図る講習会……だそうだ。
やたら明るいS講師の指示で、幾つか実験をする。相手の顔の表情だけで何を考えているかをあてっこしたり、自分がどの距離までを安全と感じているかの範囲を調べたりした。実験で判った事は、私のテリトリーは標準より距離が長く、警戒心が相当強いようだ。どうしてそうかは判らないが、知っておいて良かったと思う。
訓練を重ねることで、非言語メッセージを読み取る率は格段に上がるそうだ。ゲームとしては面白いと思うが、スキルの完全欠如でつらい十代を送った私としては、訓練自体が何か拷問めいていた。結局、他人への「信頼感」がなければ、これらの知識を有効に活用できないと判る。スキルの先にあるものが問題なのだろう。今後はSSTを小中学校の授業にも取り入れていく可能性もあるとのこと。……
今日はおぬまさんの誕生日だった。本人は祝って欲しくなさそうに見えたが、家族で無理矢理に祝った。ケーキを焼いて、娘が生クリームと果物を飾った。ローソクは42本も買えなかった。気乗りしない風だったけれど、一応火は吹き消してくれた。
ソーシャルスキルとは社会的な場での対人関係処理能力を差すらしく、挨拶、御礼、謝罪等などの基本的態度や、相づち、目線、表情などの非言語コミュニケーションなどをあらためて学び直すことでスキルアップを図る講習会……だそうだ。
やたら明るいS講師の指示で、幾つか実験をする。相手の顔の表情だけで何を考えているかをあてっこしたり、自分がどの距離までを安全と感じているかの範囲を調べたりした。実験で判った事は、私のテリトリーは標準より距離が長く、警戒心が相当強いようだ。どうしてそうかは判らないが、知っておいて良かったと思う。
訓練を重ねることで、非言語メッセージを読み取る率は格段に上がるそうだ。ゲームとしては面白いと思うが、スキルの完全欠如でつらい十代を送った私としては、訓練自体が何か拷問めいていた。結局、他人への「信頼感」がなければ、これらの知識を有効に活用できないと判る。スキルの先にあるものが問題なのだろう。今後はSSTを小中学校の授業にも取り入れていく可能性もあるとのこと。……
今日はおぬまさんの誕生日だった。本人は祝って欲しくなさそうに見えたが、家族で無理矢理に祝った。ケーキを焼いて、娘が生クリームと果物を飾った。ローソクは42本も買えなかった。気乗りしない風だったけれど、一応火は吹き消してくれた。
朝、電車を乗り継いで、S川駅のホテルに行く。着くと巨大な建物だった。うやうやしく頭を下げるボーイさんに会釈を返して、中を通り過ぎただけなのをごまかした。
北海道の叔母さんといとこのMちゃんが、介護の専門学校を受験する為、二人で東京に来ていた。叔母さんは大きい荷物をぶら下げて立っていた。Mは今、丁度面接の最中だわ、と私に言う。腕時計の針は10時だった。喫茶店で話をしながら、Mちゃんが戻ってくるのを待った。合格したらMちゃんは東京で暮らすつもりだそうだ。叔母さんは応援と寂しさが混ざったままらしく、仕方ないっしょ、と力なく笑った。自分にも娘がいるけれど、まだ子供だから、旅立ちの日はまるで想像出来ない。
一時間後に現れたMちゃんは、会うなり目に涙を浮かべて、もうダメだ、と訴えた。面接官と会話が噛み合わなかったらしい。三人で適当に歩き出し、目の前にあったトンカツ屋に入って、とにかく終わったのだからとカツなどを頼むが、Mちゃんはほとんど箸もつけない。うなだれた頭を見ながら、自分が18歳で上京した時の気持を思い出す。心臓の音が直に聞こえるような、しんとしたホテルの天井だった。彼女の賭けもうまく行きますように。
受かったら、ご馳走するからね、と別れ際にMちゃんに言うと、Mちゃんはほんの少しだけ笑って、小さな八重歯を見せた。
北海道の叔母さんといとこのMちゃんが、介護の専門学校を受験する為、二人で東京に来ていた。叔母さんは大きい荷物をぶら下げて立っていた。Mは今、丁度面接の最中だわ、と私に言う。腕時計の針は10時だった。喫茶店で話をしながら、Mちゃんが戻ってくるのを待った。合格したらMちゃんは東京で暮らすつもりだそうだ。叔母さんは応援と寂しさが混ざったままらしく、仕方ないっしょ、と力なく笑った。自分にも娘がいるけれど、まだ子供だから、旅立ちの日はまるで想像出来ない。
一時間後に現れたMちゃんは、会うなり目に涙を浮かべて、もうダメだ、と訴えた。面接官と会話が噛み合わなかったらしい。三人で適当に歩き出し、目の前にあったトンカツ屋に入って、とにかく終わったのだからとカツなどを頼むが、Mちゃんはほとんど箸もつけない。うなだれた頭を見ながら、自分が18歳で上京した時の気持を思い出す。心臓の音が直に聞こえるような、しんとしたホテルの天井だった。彼女の賭けもうまく行きますように。
受かったら、ご馳走するからね、と別れ際にMちゃんに言うと、Mちゃんはほんの少しだけ笑って、小さな八重歯を見せた。