寝不足にはどうしても勝てない。私は時々脚本の仕事をして家計を助けているのだが、朝起きると主婦の気分、深夜になると仕事気分、などどいう器用な暮らしはとうとう実現しないということが判った。日常生活は高度な虚構だ。物を書く意思は原始人への退行だから、主婦の仕事は原人では出来ず、物を書く仕事はきちんとした暮らしと反発するといった具合で、どうにもやるせない。
物を書く時は、どうして世間の目などを気にしていられようか。真っ暗闇の映画館に一人で座っていて、目の前には巨大な白いスクリーン。さあ、まだ誰も見たことのない映画を今から二時間、最初から最後まであなた一人で夢想しなさい、と言われているようなものだ。どうしたらいいか。脚本を書くというのは、そういう作業なのだと思う。そしてそれは、昼の明るい時間と共存するには、相当へんてこな力だ。
物を書く時は、どうして世間の目などを気にしていられようか。真っ暗闇の映画館に一人で座っていて、目の前には巨大な白いスクリーン。さあ、まだ誰も見たことのない映画を今から二時間、最初から最後まであなた一人で夢想しなさい、と言われているようなものだ。どうしたらいいか。脚本を書くというのは、そういう作業なのだと思う。そしてそれは、昼の明るい時間と共存するには、相当へんてこな力だ。
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堅くなった言葉をほぐして、深夜にやっと日記。仕事のプレッシャーが始まったので、日記に影響してきた。運動も続けたいし、家事もしっかり、字の勉強もしたいのだけど、体力の残量が乏しくなっていく。自分の目盛り、というのが背中についてたらいいのに。外から見ても一発で判るのに。頭をどんどんと殴って、ようやく言葉をとばす。もう頭にこぶが出来ている。毎日更新は自分の趣味で、こぶも趣味なのか。仕事が来ると、容赦なくカウントダウンの〆切時間に向かって吸い込まれるので、支離滅裂になって、こぶどころでは済まなくなる。
こぶを撫でているうちに、知らずに2つに増えていた。分裂したらしい。なんでも出来る人間には憧れる。そんな人は存在しないのかも知れないが。
こぶを撫でているうちに、知らずに2つに増えていた。分裂したらしい。なんでも出来る人間には憧れる。そんな人は存在しないのかも知れないが。
娘と二人で電車を乗り継き、小さなS駅の改札へ出た。お母さん友達のTさんは子供を連れて駅まで迎えに来てくれていた。久しぶりだね、とお互い言うのが精一杯で、なにか軽い調子の話をしながら、五分ほど歩いた先のTさんのご自宅に向かった。
温かいコーヒーをいただいていたら、時折背後でカナリヤが鳴いた。メスが一羽いて、無精卵の卵を抱いているらしい。籠の中を覗くと白い卵が見えた。何週間もこうしているんだけど、可哀想だから抱かせてるんだ、とTさんは優しい目をさらに優しくして笑った。
自分は考え違いをしていた。昨日は随分馬鹿なことを考えていた。必ず治癒する、私のような周りの者がTさんの敵なのだ。必ず治癒するのだと考える者だけが、ほんとうの覚悟を生きている。昨日の自分の浅はかな、諦念めいた態度を恥ずかしく思った。何も判っていなかった。Tさんにも御主人にも恥ずかしく思った。
子供達はずっと遊びたがったが、夕暮れが深まる前に帰ることにした。Tさんは私達の訪問を喜んでくれたようだった。Tさんと手をふったら、Tさんがこっちを見ているのか、私がTさんを見ているのか判らなくなりそうだった。
温かいコーヒーをいただいていたら、時折背後でカナリヤが鳴いた。メスが一羽いて、無精卵の卵を抱いているらしい。籠の中を覗くと白い卵が見えた。何週間もこうしているんだけど、可哀想だから抱かせてるんだ、とTさんは優しい目をさらに優しくして笑った。
自分は考え違いをしていた。昨日は随分馬鹿なことを考えていた。必ず治癒する、私のような周りの者がTさんの敵なのだ。必ず治癒するのだと考える者だけが、ほんとうの覚悟を生きている。昨日の自分の浅はかな、諦念めいた態度を恥ずかしく思った。何も判っていなかった。Tさんにも御主人にも恥ずかしく思った。
子供達はずっと遊びたがったが、夕暮れが深まる前に帰ることにした。Tさんは私達の訪問を喜んでくれたようだった。Tさんと手をふったら、Tさんがこっちを見ているのか、私がTさんを見ているのか判らなくなりそうだった。
今日も家の周囲を15周走った。三日連続でやって、思ったより苦しくないものだと判った。子供の頃はマラソン大会が死ぬほど嫌いだったのだけど、それはスピードを調節する事を知らずに、全力走をスタートからゴールまで続けていたからだったのだろう。走るといえば喘ぐような呼吸困難の記憶しか浮かばなかったが、歩きたければ歩いてもいい走りとは、まったく別物なんだと知って嬉しくなった。これなら苦しくない。茨城だけでなく、東京でも場所を探して走ってみよう。
明日は東京の自宅に戻る日だ。カートに大量の荷物を詰めこんで、帰り支度を済ませた。夜、家族とおぬま弟さんとで、中心街のM市にあるレストランでフランス料理をご馳走になった。義母が計画してくれた大企画だ。計画した義母も緊張していた。目の眩むようなお料理を、ありがたく、おそるおそるいただいた。ナイフもフォークもぎらぎら光っていた。味は、ほとんど夢と同じだった。
明日は東京の自宅に戻る日だ。カートに大量の荷物を詰めこんで、帰り支度を済ませた。夜、家族とおぬま弟さんとで、中心街のM市にあるレストランでフランス料理をご馳走になった。義母が計画してくれた大企画だ。計画した義母も緊張していた。目の眩むようなお料理を、ありがたく、おそるおそるいただいた。ナイフもフォークもぎらぎら光っていた。味は、ほとんど夢と同じだった。