娘と二人で電車を乗り継き、小さなS駅の改札へ出た。お母さん友達のTさんは子供を連れて駅まで迎えに来てくれていた。久しぶりだね、とお互い言うのが精一杯で、なにか軽い調子の話をしながら、五分ほど歩いた先のTさんのご自宅に向かった。
温かいコーヒーをいただいていたら、時折背後でカナリヤが鳴いた。メスが一羽いて、無精卵の卵を抱いているらしい。籠の中を覗くと白い卵が見えた。何週間もこうしているんだけど、可哀想だから抱かせてるんだ、とTさんは優しい目をさらに優しくして笑った。
自分は考え違いをしていた。昨日は随分馬鹿なことを考えていた。必ず治癒する、私のような周りの者がTさんの敵なのだ。必ず治癒するのだと考える者だけが、ほんとうの覚悟を生きている。昨日の自分の浅はかな、諦念めいた態度を恥ずかしく思った。何も判っていなかった。Tさんにも御主人にも恥ずかしく思った。
子供達はずっと遊びたがったが、夕暮れが深まる前に帰ることにした。Tさんは私達の訪問を喜んでくれたようだった。Tさんと手をふったら、Tさんがこっちを見ているのか、私がTさんを見ているのか判らなくなりそうだった。
温かいコーヒーをいただいていたら、時折背後でカナリヤが鳴いた。メスが一羽いて、無精卵の卵を抱いているらしい。籠の中を覗くと白い卵が見えた。何週間もこうしているんだけど、可哀想だから抱かせてるんだ、とTさんは優しい目をさらに優しくして笑った。
自分は考え違いをしていた。昨日は随分馬鹿なことを考えていた。必ず治癒する、私のような周りの者がTさんの敵なのだ。必ず治癒するのだと考える者だけが、ほんとうの覚悟を生きている。昨日の自分の浅はかな、諦念めいた態度を恥ずかしく思った。何も判っていなかった。Tさんにも御主人にも恥ずかしく思った。
子供達はずっと遊びたがったが、夕暮れが深まる前に帰ることにした。Tさんは私達の訪問を喜んでくれたようだった。Tさんと手をふったら、Tさんがこっちを見ているのか、私がTさんを見ているのか判らなくなりそうだった。
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