文文執筆陣のキシタケ氏が、暗闇からぬっと現れた。かなり長いこと会っていなかったので、キシタケ節の声色も変になつかしい。コーヒーを飲み、お菓子をつまみながら、隣の部屋で話をしている。おぬまさんが笑っているのが聞こえる。もう少しで12時になるので、席を立ってパソコンに向かった。今日付の日記を書こうとするが、指が動かない。彼はここの日記をほとんど読んでいないそうで、たまにチェックだけはしてくれるそうだ。身近な人の正直なコメントは、意外に勇気を奪われるものだ。ありがたいことなのである。心がざわざわして、後ろで笑い声があがる度に、字を消したり書いたりして、考えられない。部屋の窓をあける。冷たい風がすうっと入ってきた。突然ドアが開いて、八歳の娘がパジャマ姿で現れた。「ママ、ねむれないの」今夜は文章にならない。諦めた。
PR
娘に頼まれて、ハロウィンパーティーをした。昨夜娘が張り切って作ったイラストが部屋中にぺたぺたと貼ってある。娘は手書きの招待状を二人の友達に勝手に渡したらしく、月曜にやるからよろしく、と娘は大人のように頭を下げて頼んできたのだが、親の方だってハロウィンの日に何をしたらいいか皆目見当もつかないのだった。
午前中ミルクプリンを作った後、お昼にパンプキンケーキを焼いた。最近は自分が肥るのを警戒して菓子作りを敬遠していたが、やってみると相変わらず面白い。計るのも、混ぜるのも、待つのも、みんな好きな作業だ。ケーキの上に型紙を置いて、特有の怖いかぼちゃ顔をココアパウダーで描いたら、テーブルに雰囲気が出てきた。小学校から帰ってきた娘は、宿題もろくにせずに、わくわくそわそわしている。簡単な仮装をした二人の子供達がやって来ると、娘は奇声をあげて歓迎した。
皆揃ったところでテーブルにつき、ケーキの上に一応ローソクを立てる。なんか少しイメージと違う。火をつけると(?)何をしたものか判らない。歌でも歌おうかと子供達が言う。ハッピーバースディー、ハロウィン……ハッピーバースディー、ハロウィン……何の会か判らないが、めでたそうなハロウィンだった。
午前中ミルクプリンを作った後、お昼にパンプキンケーキを焼いた。最近は自分が肥るのを警戒して菓子作りを敬遠していたが、やってみると相変わらず面白い。計るのも、混ぜるのも、待つのも、みんな好きな作業だ。ケーキの上に型紙を置いて、特有の怖いかぼちゃ顔をココアパウダーで描いたら、テーブルに雰囲気が出てきた。小学校から帰ってきた娘は、宿題もろくにせずに、わくわくそわそわしている。簡単な仮装をした二人の子供達がやって来ると、娘は奇声をあげて歓迎した。
皆揃ったところでテーブルにつき、ケーキの上に一応ローソクを立てる。なんか少しイメージと違う。火をつけると(?)何をしたものか判らない。歌でも歌おうかと子供達が言う。ハッピーバースディー、ハロウィン……ハッピーバースディー、ハロウィン……何の会か判らないが、めでたそうなハロウィンだった。
さっぱりとした朝だった。昨夜の雨が空気を洗い流して、はるか遠くまで空の色が見渡せる。午前中は一人きりでおぬま邸にいた。
鏡で背中を映してみると、痛むところに痣が出来ている。試しにバレエの姿勢をとるとズキッとするが、転落して滑った距離を思うと、怪我は軽く済んだ方らしい。来週には良くなってくれるだろう。
お昼過ぎ、いつもと同じ時刻にI駅。東京行の特急電車に乗り込む。電車のドアが閉まると、娘とおぬまお母さんは、ドア越しに手と手を重ね合わせて、また来週ね、と合図を送る。娘はいつも夢中で窓をバンバン叩く。以前に一度あまりに叩きすぎて、電車のドアが開いてしまった事があったっけ。そういう儀式をもう4年位やっている。
誰も喋らない静かな車内で、娘の寝顔を見ながら、持ってきた本を読んだ。テレビドラマ用脚本『私が殺した男』。十年以上も前に担任講師だったI先生の作品。先生の経歴の中では際立った作品ではないけれど、体質が滲み出ていて興味深い。先生のようにどんなに制約だらけの状況でも感動の核を見つけだせるようにならないと、この先も自分はものにならないだろう。掲載されていた若い頃の写真を眺めていたら、昔から怖い目だなと思う。いつの間にか上野駅に着いた旨の車内放送を聞いた。
鏡で背中を映してみると、痛むところに痣が出来ている。試しにバレエの姿勢をとるとズキッとするが、転落して滑った距離を思うと、怪我は軽く済んだ方らしい。来週には良くなってくれるだろう。
お昼過ぎ、いつもと同じ時刻にI駅。東京行の特急電車に乗り込む。電車のドアが閉まると、娘とおぬまお母さんは、ドア越しに手と手を重ね合わせて、また来週ね、と合図を送る。娘はいつも夢中で窓をバンバン叩く。以前に一度あまりに叩きすぎて、電車のドアが開いてしまった事があったっけ。そういう儀式をもう4年位やっている。
誰も喋らない静かな車内で、娘の寝顔を見ながら、持ってきた本を読んだ。テレビドラマ用脚本『私が殺した男』。十年以上も前に担任講師だったI先生の作品。先生の経歴の中では際立った作品ではないけれど、体質が滲み出ていて興味深い。先生のようにどんなに制約だらけの状況でも感動の核を見つけだせるようにならないと、この先も自分はものにならないだろう。掲載されていた若い頃の写真を眺めていたら、昔から怖い目だなと思う。いつの間にか上野駅に着いた旨の車内放送を聞いた。
教室で、娘についての個人面談。向かい合っている女先生は、笑顔をたやさない人で、クラスの雰囲気も良いので信頼している。娘は学校の話を聞いても、今日はとーっても楽しかったよ、というだけで、どう楽しかったか聞いても、具体的に何があったかをあまり話さない。聞いてもめんどうくさいという。横着なのはおぬまさん譲りのようだ。先生は、子あざらしさんはとってもメルヘンなんですよ、と言う。そういうところは私譲りだ。
先生の言葉にも特に心配な要素はなかった。教室の娘の作品は、どんなに生意気な事を言っていても、やはり大人とは違う生き物だということを教えてくれる。家に戻ると、鍵をあけて中で待っていた娘は、近所の友達と一緒に騒ぎまくっていた。
夕方、自分のテンションは下がってきた。うちのメルヘン娘は、ぶーぶー文句を言うブーイング娘に変ってきた。どうして気分が重たいのだろう。雨のせいなのだった。早く早くと娘を急きたててドアを出る。重たいカートを抱えてマンションの階段を降りると、雨で滑って、カートごと階段から落ちた。上から下まで転落したらしい。カートは階段を滑り落ちて、一番下の角に当たって止まった。なにかもう、どうしようもなく、情けない気持になった。階段からようやく立ち上がると、腰、背中、肩、手首がじんじん痛む。今日茨城行かなくてもいいかな。娘に八つ当たりして言うと、娘は黙って私の顔をみて、ごめんね、と言った。
自分が昔された母親からの八つ当たりを思い出した。親って結構、いいかげん。
先生の言葉にも特に心配な要素はなかった。教室の娘の作品は、どんなに生意気な事を言っていても、やはり大人とは違う生き物だということを教えてくれる。家に戻ると、鍵をあけて中で待っていた娘は、近所の友達と一緒に騒ぎまくっていた。
夕方、自分のテンションは下がってきた。うちのメルヘン娘は、ぶーぶー文句を言うブーイング娘に変ってきた。どうして気分が重たいのだろう。雨のせいなのだった。早く早くと娘を急きたててドアを出る。重たいカートを抱えてマンションの階段を降りると、雨で滑って、カートごと階段から落ちた。上から下まで転落したらしい。カートは階段を滑り落ちて、一番下の角に当たって止まった。なにかもう、どうしようもなく、情けない気持になった。階段からようやく立ち上がると、腰、背中、肩、手首がじんじん痛む。今日茨城行かなくてもいいかな。娘に八つ当たりして言うと、娘は黙って私の顔をみて、ごめんね、と言った。
自分が昔された母親からの八つ当たりを思い出した。親って結構、いいかげん。
小学校の役員の仕事をしにB先生のご自宅へ行く。私の所属する二学期班は、学校新聞を作る目的で集まっているのだけど、本当にやっかいな仕事だとだんだん判ってきた。
印刷所では、レイアウトも写真も記事も何から何まで、本番刷りと同じデータを持ってこさせるそうだ。パソコンを使った事のない普通のお母さん達には、難易度が高過ぎるハードルだ。そんなハイレベルなものを作る知識をどこで得たらいいかというと、お母さん方の独学にゆだねられている。たまたまパソコンに詳しい人が役員の中に紛れ込むのを待つそうだ。
保護者の参加って、こういう事なのかな。自分には行きすぎた感のある作業に思える。けれど、それはどの小学校も大抵そうしているものらしい。
お昼時だったので、おむすびなどいただきながら打ち合わせする。打ち合わせより、おむすびが美味しい。パソコンを前に、運動会や学芸会の記事の配置などを相談する。退屈さに、とにかく楽しさを見つけようと思う。
家に帰って、シナリオ集を枕にして、うつ伏せたまま寝てしまった。気がつくと、娘が帰ってきていて、亀の子のように背中に乗っていた。重くなったなと思いつつ、背中に乗せたまま、水の中を泳ぐ夢を見る。
印刷所では、レイアウトも写真も記事も何から何まで、本番刷りと同じデータを持ってこさせるそうだ。パソコンを使った事のない普通のお母さん達には、難易度が高過ぎるハードルだ。そんなハイレベルなものを作る知識をどこで得たらいいかというと、お母さん方の独学にゆだねられている。たまたまパソコンに詳しい人が役員の中に紛れ込むのを待つそうだ。
保護者の参加って、こういう事なのかな。自分には行きすぎた感のある作業に思える。けれど、それはどの小学校も大抵そうしているものらしい。
お昼時だったので、おむすびなどいただきながら打ち合わせする。打ち合わせより、おむすびが美味しい。パソコンを前に、運動会や学芸会の記事の配置などを相談する。退屈さに、とにかく楽しさを見つけようと思う。
家に帰って、シナリオ集を枕にして、うつ伏せたまま寝てしまった。気がつくと、娘が帰ってきていて、亀の子のように背中に乗っていた。重くなったなと思いつつ、背中に乗せたまま、水の中を泳ぐ夢を見る。