少し肌寒い日。遠出して娘と一時間半電車に乗る。試験の時には絶対落ちたと言って泣きべそをかいていた従妹のMちゃんが、今日はスーツ姿で入学式だった。上京イコール貧乏暮らしという連想は古いらしく、Mちゃんの部屋は綺麗でセキュリティも万全、スタートから東京している。お茶と一緒に出されたお菓子は、北海道のなつかしい銘菓だったけれど。
Mちゃんの顔に寂しさはあまりない。東京中で沢山の人が新しい暮らしを始めているのだろう。電車の複雑な路線図を見上げ、大気の汚れに健康への不安を感じ、標準語の流暢な響きに驚かされて。Mちゃんの喜びが東京の街に吸い込まれていく。娘と手をつないで帰りながら、いつか娘を送り出す日の無限の遠さに、すこしほっとする。
Mちゃんの顔に寂しさはあまりない。東京中で沢山の人が新しい暮らしを始めているのだろう。電車の複雑な路線図を見上げ、大気の汚れに健康への不安を感じ、標準語の流暢な響きに驚かされて。Mちゃんの喜びが東京の街に吸い込まれていく。娘と手をつないで帰りながら、いつか娘を送り出す日の無限の遠さに、すこしほっとする。
風と雨で、桜の花が足もとで水にふやけている。H町駅の親しい友人がどうしても今日会いたいという。用件を聞いてもはっきりと答えない。
幼児の頃から慢性的に、親にしっかりと抱きとめてもらった経験を持たなかった人は、大人になった後も自分が愛に値する人間なのか信じきることが出来ない。その疑心暗鬼は一生涯続く。初めは彼女がどうして私を呼ぶ日が大抵悪天候なのかを不思議に思っていた。気圧やら重い気分やらが影響しているのではないかと思っていた。もしかしたら、悪天候の中彼女の為にわざわざ会いにくる人間がいること、そのことで、彼女は第三者の愛に値する人間であると信じられ、安心することが出来るからではないだろうか。
善意は生ものと同じで腐りやすい。電車の席を譲ってあげた後、立ち去る事が出来ないでつり革に掴まっている人は、善意が腐る時間に耐えているかのようだ。腐って匂いを放つから人に嫌われる。あてにならない善意を動力にせず、かといって、シニカルにもならず、長期戦でやれたらと思う。
幼児の頃から慢性的に、親にしっかりと抱きとめてもらった経験を持たなかった人は、大人になった後も自分が愛に値する人間なのか信じきることが出来ない。その疑心暗鬼は一生涯続く。初めは彼女がどうして私を呼ぶ日が大抵悪天候なのかを不思議に思っていた。気圧やら重い気分やらが影響しているのではないかと思っていた。もしかしたら、悪天候の中彼女の為にわざわざ会いにくる人間がいること、そのことで、彼女は第三者の愛に値する人間であると信じられ、安心することが出来るからではないだろうか。
善意は生ものと同じで腐りやすい。電車の席を譲ってあげた後、立ち去る事が出来ないでつり革に掴まっている人は、善意が腐る時間に耐えているかのようだ。腐って匂いを放つから人に嫌われる。あてにならない善意を動力にせず、かといって、シニカルにもならず、長期戦でやれたらと思う。
悪化していく花粉症に驚きながら東京の空気を吸う。マスクをしてこなかったことを後悔した。娘の手をひいて自宅への道を久し振りに歩く。九日いなかっただけで少しずつ変わっている。人の服装、店の看板。気がかりだった近所の桜並木を見上げると、残念、どの樹も花こそまだついているが、地の枝が透けて無骨な姿に戻っていた。東京の桜は散り際が異様に綺麗なので、それを今年も見られなかった事で、また一年間待つのか、と非常に残念な思いがする。
相棒は家にいて、久し振り、と挨拶を交わす。ヒゲだけ伸びていた。留守の間に溜まった掃除と洗濯を片っ端からやっていると、茨城とはまた違う暮らしの実感が湧いてきた。都市の暮らしは気ぜわしい。忙しいけれど自分の家があるというのはそれだけで幸福な事ではないだろうか。忙しいというのは、きっと悪いことではないはずだ。明日は娘の新学期。朝ごはん、昼家事、夜仕事。日記作業が夜明けになり、船をこぎながらこれをつける。
相棒は家にいて、久し振り、と挨拶を交わす。ヒゲだけ伸びていた。留守の間に溜まった掃除と洗濯を片っ端からやっていると、茨城とはまた違う暮らしの実感が湧いてきた。都市の暮らしは気ぜわしい。忙しいけれど自分の家があるというのはそれだけで幸福な事ではないだろうか。忙しいというのは、きっと悪いことではないはずだ。明日は娘の新学期。朝ごはん、昼家事、夜仕事。日記作業が夜明けになり、船をこぎながらこれをつける。