S先生のバレエ教室で、夢のような稽古をしたあと、帰り道にドラックストアに寄って、店員さんに先週忘れてきた買物袋の件をおそるおそる申し出た。レジの方は先週とは違う方らしく、えっ?と乱暴に聞き返して、ばかな人ねえ、という表情を隠そうともせず、そちらでお待ち下さいねと言う。恥ずかしくてたまらず、かみしめた歯が痛かった。普段からぼんやりしているから、こういう目に遭うのだった。
昔なら歩きながら泣いてしまったかも知れないが、35歳にもなって涙を流していたら、それは阿呆の極みでしゃれにもならない。もうわすれろ、わすれろ、と自分に呟き、失敗の記憶を強化した。家に帰ってから、熱が出た。たぶん知恵熱だと思う。