猛威

あれからすでに二日経ったのに、気分は鬱々として晴れない。退職までは予想していなかった。こんな事になるなら、Ｙ先生が辞めた時の学校側の提案に、反対していれば良かった。とても難しいクラス運営で、Ｈ先生の手に余ることは、あの場にいる全員が予想していた筈だ。でもそれは結果論で、もう悪い形で終わってしまった。
娘達は新型インフルで、今回で二度目の学級閉鎖となった。冬休みも学校に通わなければならないかも知れない。

健康診断日・一回目

無料の三十代健康診断を受けに行く日だったので、Ｎ区の庁舎へ向かう。家にいても気が重かったから、丁度良かった。廊下に書かれた矢印にしたがって歩くと、健康審査室は簡単に見つかって、水色のパジャマが入口に山積みされていた。親切な看護婦さんと、横柄な男性係員の指示で、自分もパジャマに着替えて、システマチックに配置された検査室を指示されるままに渡り歩いた。無料のは始めて利用したけれど、検査も簡単だなあと感じた。結果はあとで郵送される。身体測定や血圧、心電図など計って、短い問診もしてもらった。低血圧ですね、とお婆さんの医師が優しく教えてくれた。ほんの少し、お肉を召し上がるといいですよ。

そして

今夜は、本当に辛い気持で保護者会の報告を聞いた。みんな精一杯、現場も精一杯なのだろうと理解はしている。でも、もう、なんだか辛かった。
『お知らせ　四年Ａ組の保護者の皆様におかれましては、ますますご健勝のこととお喜び申し上げます。さて、Ｙ教諭に代わり、担任となったＨ教諭ですが、体調不良のため１１月６日に退職いたしました。このような事態と混乱を招いたこと大変申し訳ありません。お詫びいたします。……』

結局

娘のクラスの連絡網が回ってきた。月曜日にまた臨時保護者会が開かれるとのこと。用件はＨ先生に関するお話しだそうです、という。どんな用件かはっきりしない連絡網を回す学校側の姿勢には誠意を感じられない。多分、担任を降りるだとか、そんな話だろうと思うけれど、こんな漫画みたいな酷い展開ってあるだろうか。ベテランの教員達が、Ｈ先生を支えていく、という前回の説明も、結局は、只の見せかけだった訳だ。

井の頭公園

今週日曜日は、合唱部に入っている娘が合同音楽祭へ参加する予定だったのだが、インフルエンザ騒動で他校が３校も不参加となったらしく、突然中止になってしまった。予定があいてしまったので、たまたま連絡をくれた悪友Ｔに会いに行くことにした。娘を連れて吉祥寺へ行き、人だかりの中で立っていた彼女達を見付けた。幼稚園の時に会ったきりの彼女の息子達は、小学六年生と四年生に成長していた。
彼女はシングルマザーで二人の子供を養っている。まっいっか、が口癖で、生真面目で理屈っぽい私の真逆を行く人間だ。周辺の井の頭公園に行き、お互いの子供に痩せたお婆さん象や猿山などを見せながら、あらたまった話をする事もなく、園内を歩き回った。Ｔは自分の親に離婚の話をしていない。七年くらい黙っている。彼女はそんな風に、あんまり細かい事は気にしない。自分がＴだったら、悩み通して禿げてしまいそうだと思われる事件も、彼女はまっいっかで越えてきた。彼女と自分は同い年だ。
田舎に帰ろうかなあと思ってるんだよね、と彼女は言った。Ｔの息子はＴの顔をちらっと見たが、何のコメントもしなかった。動物がいなくなった後は彫刻の森になり、裸のブロンズ像が次々と現れた。皆で笑いながら薄暗い小道を行き過ぎた。

副校長先生

担任のＨ先生は、あれから学校に来たり来なかったりという体調らしく、授業は全くされていないようだ。学級通信もＮｏ.２の発行でストップしてしまった。副校長先生が授業を担当しているらしい。結局４、５回の授業をしただけで終わった事になる。訓練生パイロットが、いきなり操縦桿を握って飛行機を離陸させろ、と言われても、情熱や努力の問題以前に、無理というものではないだろうか。今回の学校側の対応は本当に酷かったと思う。
副校長先生は随分厳しい方のようだが、とぼけた冗談も言うらしく、子供たちには慕われているようだ。体育の時はどうしているの、と娘に聞いたら、体育も副校長先生がやってるよ、という返事だった。