睡眠が5時間で、布団をひきずって朝の開始。本日の予定は……バレエ、広報の取材活動、授業参観日、保護者会。手帳を見てしばらくぼーっとする。こんなにあったっけ。体力足りないかも。
I駅に行き、10時からバレエ開始。開始直後から息がきれる。ゆったりとした優雅な動きでも、私のゆったりはお婆さん風。外向きの膝を楽な方にゆるめて、どっこいしょと足を引っ込める。だらしないバレエ位見苦しいものはない。下手でも前を向いて精一杯向かえば、下手なりの美しさが出るのだ。自己嫌悪で初めて鏡から目をそらした。ポワントレッスンには参加せず、落ちこんで帰ってきた。
バッグを玄関に放りなげてすぐ小学校へ出発。次は広報の腕章をつけて、「CAP講習会」という聞き慣れない名前の講習会に参加する。CAPとは、子供がいじめ、虐待、誘拐等の様々な暴力から自分を守る為の教育プログラムだそうだ。犯罪者に口を手でふさがれたら、実際子供達はどうするか。講師の先生曰く、95パーセントの子供達の解答は、「べろで、なめる」だそうである。そんなことで身を守れると思っている子供達が愛おしい。NPO法人から来た講師の方々に取材をお願いする。皆明るく、電気のように輝いている。あなたも一緒に活動しませんかと誘われて、ちょっと心が動いた。
時間遅れて教室に入り、お母さん達に混じって保護者会。担任の優しい声の説明を聞いているうちに、ちょっと軽い睡魔に襲われる。目をあけて眠る高校の時の術を久しぶりに使った。気がつくと会は終わっていた。夕陽を見ながらとぼとぼ校庭に行くと、遥か彼方に、点。点は走ってきた。娘だ。おまえを酷い目に遭わせようとするヤツを、決してべろでなめてはいけないよ。
I駅に行き、10時からバレエ開始。開始直後から息がきれる。ゆったりとした優雅な動きでも、私のゆったりはお婆さん風。外向きの膝を楽な方にゆるめて、どっこいしょと足を引っ込める。だらしないバレエ位見苦しいものはない。下手でも前を向いて精一杯向かえば、下手なりの美しさが出るのだ。自己嫌悪で初めて鏡から目をそらした。ポワントレッスンには参加せず、落ちこんで帰ってきた。
バッグを玄関に放りなげてすぐ小学校へ出発。次は広報の腕章をつけて、「CAP講習会」という聞き慣れない名前の講習会に参加する。CAPとは、子供がいじめ、虐待、誘拐等の様々な暴力から自分を守る為の教育プログラムだそうだ。犯罪者に口を手でふさがれたら、実際子供達はどうするか。講師の先生曰く、95パーセントの子供達の解答は、「べろで、なめる」だそうである。そんなことで身を守れると思っている子供達が愛おしい。NPO法人から来た講師の方々に取材をお願いする。皆明るく、電気のように輝いている。あなたも一緒に活動しませんかと誘われて、ちょっと心が動いた。
時間遅れて教室に入り、お母さん達に混じって保護者会。担任の優しい声の説明を聞いているうちに、ちょっと軽い睡魔に襲われる。目をあけて眠る高校の時の術を久しぶりに使った。気がつくと会は終わっていた。夕陽を見ながらとぼとぼ校庭に行くと、遥か彼方に、点。点は走ってきた。娘だ。おまえを酷い目に遭わせようとするヤツを、決してべろでなめてはいけないよ。
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本日、全国の小学校で始業式。子供ってえらいなと思う。ちんどん屋みたいに荷物を山ほどぶら下げて、娘のランドセルが元気よく遠ざかる。
昨日まで泳いでいた青い楽園の点である。点はそれぞれ自分の生活に忙しい。私は雑巾を絞る手に力をこめる。怪力でねじ切るみたいに。下から隙間を覗きこむ。隠れた埃を殺すみたいに。
お昼頃に小学校にて引き取り訓練。震災時や不審者事件を想定して、親が子供を迎えに行く訓練だ。銀色のとんがり防災頭巾をかぶった子供達がグランドに整列している図は圧巻だ。壇上の校長先生はヘルメットを被っている。真面目なのか不真面目なのか、他の先生達はメットなし。お母さん達は話を聞かず談笑している。久しぶりに会ったお母さん友達数人と、何故校長先生も銀色頭巾にしないのかについて意見交換する。
私は家仕事に没頭する。水を汲む。バケツを突き破るみたいに。
時計を見上げる。十時半。日記をつける事が完全に習慣になった生活に、黄色信号が静かに灯っている。頑張れへたくそ。心のランプついてるぞ。妖怪マンネリが姿を現した。三本指を突き出して威嚇する。この辺りが第二の危険地帯なのかも知れない。この日常を非日常化するか、日常にのまれるか、その瀬戸際なのだろう。
昨日まで泳いでいた青い楽園の点である。点はそれぞれ自分の生活に忙しい。私は雑巾を絞る手に力をこめる。怪力でねじ切るみたいに。下から隙間を覗きこむ。隠れた埃を殺すみたいに。
お昼頃に小学校にて引き取り訓練。震災時や不審者事件を想定して、親が子供を迎えに行く訓練だ。銀色のとんがり防災頭巾をかぶった子供達がグランドに整列している図は圧巻だ。壇上の校長先生はヘルメットを被っている。真面目なのか不真面目なのか、他の先生達はメットなし。お母さん達は話を聞かず談笑している。久しぶりに会ったお母さん友達数人と、何故校長先生も銀色頭巾にしないのかについて意見交換する。
私は家仕事に没頭する。水を汲む。バケツを突き破るみたいに。
時計を見上げる。十時半。日記をつける事が完全に習慣になった生活に、黄色信号が静かに灯っている。頑張れへたくそ。心のランプついてるぞ。妖怪マンネリが姿を現した。三本指を突き出して威嚇する。この辺りが第二の危険地帯なのかも知れない。この日常を非日常化するか、日常にのまれるか、その瀬戸際なのだろう。
ネットオークション現在進行中。〆切時間間際になって急に値段がつり上がってきて、あれよあれよと置いてけぼりにされている。負けた……。成程こういうものか。つまり意識せずに熱い闘いに巻き込まれていた訳なのだった。まだまだ値は上がりそうだが、もう無理。指をくわえて見守るだけにする。買えなくてもなんだかちょっと面白かった。
今日は九月、曇り空。娘の夏休みも残り少なくなったので、学校指定の上靴を買いにE駅の商店街まで歩いていった。業者の店までは片道20分の道のりで、靴もべらぼうに高く(なんでもない靴が2450円)保護者の間でも不評なのだが、小学校というのは結構理不尽な要求をしてくるものだ。
のんびりした風景を足にまかせて歩く。暑さも一区切りついて、秋の気配が近くまで来ている。野球の恰好をした男の子達が自転車にまたがって、自分の横をすり抜けていく。地図を逆さにしたり、横にしたりして目的地へ向かう。私は方向感覚というものがない。道路はどこまで行っても同じような場所に見える。鳥に生まれなくて良かったと思う。
訪ね歩いた洋品店は、錆びた看板にようやく名前が読める感じだった。実にさびしいゴールだ。真新しいシューズを履いて喜ぶ娘の顔が浮かんだ。置物みたいに座って半分眠っているおじさんが、薄目をあけてこちらを見た。
今日は九月、曇り空。娘の夏休みも残り少なくなったので、学校指定の上靴を買いにE駅の商店街まで歩いていった。業者の店までは片道20分の道のりで、靴もべらぼうに高く(なんでもない靴が2450円)保護者の間でも不評なのだが、小学校というのは結構理不尽な要求をしてくるものだ。
のんびりした風景を足にまかせて歩く。暑さも一区切りついて、秋の気配が近くまで来ている。野球の恰好をした男の子達が自転車にまたがって、自分の横をすり抜けていく。地図を逆さにしたり、横にしたりして目的地へ向かう。私は方向感覚というものがない。道路はどこまで行っても同じような場所に見える。鳥に生まれなくて良かったと思う。
訪ね歩いた洋品店は、錆びた看板にようやく名前が読める感じだった。実にさびしいゴールだ。真新しいシューズを履いて喜ぶ娘の顔が浮かんだ。置物みたいに座って半分眠っているおじさんが、薄目をあけてこちらを見た。
ひとりで昼に出発し、どこでもドアで茨城へ。ただいま、というか一昨日までいたから、野菜や雑草の伸び具合も変化なし。
夕方、おばさんの自宅で親戚だけのささやかな通夜がある。部屋は二間しかない。玄関が狭いので、窓を入口代りにして行き来している。ほとんどお会いしたことのないおばさんだから、何の予備知識もないまま部屋を眺める。茶褐色の壁。古いカレンダー。やぶれた障子。二台あるテレビは一台が壊れたまま並べてある。折り紙で作ったボールや、チラシで織ったツルなどがぶら下がっている。
おばさんは長年一人暮らしで、倒れて半年ほど病院で生きてから亡くなったが、部屋は倒れた時のままになっていた。この通夜の為に親戚総出で掃除をしたら、手仕事の作品がゴミ袋いっぱい山のように出てきたという。全部燃やして処分したそうだ。
親戚の人達の会話は内容があまりよく判らない。じっと正座する。座っていると月が出そうな位置に、信号機の光が見えている。この家は道路のすぐ側だ。開け放した窓から信号の月がよく見える。どういう暮しだったのだろう。一人きりで何十年も。おばさんもここから信号を幾度となく見たに違いない。
帰り際、列に並んで自分も線香をあげる。私はお辞儀がいかにも下手だ。せめて気持を入れて拝んだ。おばさんの遺影は若い頃のものだった。
夕方、おばさんの自宅で親戚だけのささやかな通夜がある。部屋は二間しかない。玄関が狭いので、窓を入口代りにして行き来している。ほとんどお会いしたことのないおばさんだから、何の予備知識もないまま部屋を眺める。茶褐色の壁。古いカレンダー。やぶれた障子。二台あるテレビは一台が壊れたまま並べてある。折り紙で作ったボールや、チラシで織ったツルなどがぶら下がっている。
おばさんは長年一人暮らしで、倒れて半年ほど病院で生きてから亡くなったが、部屋は倒れた時のままになっていた。この通夜の為に親戚総出で掃除をしたら、手仕事の作品がゴミ袋いっぱい山のように出てきたという。全部燃やして処分したそうだ。
親戚の人達の会話は内容があまりよく判らない。じっと正座する。座っていると月が出そうな位置に、信号機の光が見えている。この家は道路のすぐ側だ。開け放した窓から信号の月がよく見える。どういう暮しだったのだろう。一人きりで何十年も。おばさんもここから信号を幾度となく見たに違いない。
帰り際、列に並んで自分も線香をあげる。私はお辞儀がいかにも下手だ。せめて気持を入れて拝んだ。おばさんの遺影は若い頃のものだった。
車を運転していると、緑の田んぼが夕暮れの光を浴びているのが見えた。分厚いセーターを着せられた案山子が立っている。あんなニセもの丸出しの姿で本当に雀がだまされるのだろうか。
気温が下がり、ゆるゆると楽に過ぎてくれた日。気がついたら夕刻だ。時間が沢山ある。娘は健康で、お母さんとの関係も穏やかだ。余裕の貯金が増えている。こんな日もあっていいとは思うが、九月に入れば急に時間が短くなるのだから、今のうちに自分の宿題をやってしまわなければいけない、と運転しながら焦りを感じる。
バレエでは基礎訓練を続けないとある表現の粋に達しない。東京の自宅の裏にある柔道場も、毎日投げたり投げられたりする音がしている。スポーツの世界はそうだ。文章家だけが特別なひらめきを頼って済ませていい筈がないと思う。文章を生業とする気なら、一冊の本も読まなかった今日は、気を抜きすぎた、という感が否めない。
自分に勝つことは難しい。自分に負けることは、いつだって快楽だった。後悔という存在さえなければ、人生は負けた方がだんぜん楽しいものらしい。
気温が下がり、ゆるゆると楽に過ぎてくれた日。気がついたら夕刻だ。時間が沢山ある。娘は健康で、お母さんとの関係も穏やかだ。余裕の貯金が増えている。こんな日もあっていいとは思うが、九月に入れば急に時間が短くなるのだから、今のうちに自分の宿題をやってしまわなければいけない、と運転しながら焦りを感じる。
バレエでは基礎訓練を続けないとある表現の粋に達しない。東京の自宅の裏にある柔道場も、毎日投げたり投げられたりする音がしている。スポーツの世界はそうだ。文章家だけが特別なひらめきを頼って済ませていい筈がないと思う。文章を生業とする気なら、一冊の本も読まなかった今日は、気を抜きすぎた、という感が否めない。
自分に勝つことは難しい。自分に負けることは、いつだって快楽だった。後悔という存在さえなければ、人生は負けた方がだんぜん楽しいものらしい。
小雨がちらつく中、家族で集まってお祭りを見に行く。灯りは夢のように照って、娘たちの浴衣の背中の帯に金魚が泳いでいるように見える。ひらひらしている。笛と太鼓の音色は体調が悪いせいか、耳が驚かされる。出店は全国から集まってくるらしい本職のテキ屋さんばかりで、みんな現実の辛酸を舐め尽くしたような顔をしている。子供達は盛んにくじを引くが、当たるのは下等のくじばかりだ。店を見ていたら、昔の幼なじみがフランクフルトを売っていた。二言三言話して、お互いなつかしさで変に照れてしまい、身動きが取れなくなり、顔もよく見ずに早々に別れた。
七人の子供達はスマートボールに夢中になっている。私も好きで必ずやった。1ゲーム五十円。小雨が服をしめらせていく。空の冷たさ。私達が繰り返し生きてきた道の、長ようで瞬くような時間。
家に帰り、姉夫婦と弟夫婦と庭でテントなどはってバーベキューをして、お別れの夜を過ごす。
七人の子供達はスマートボールに夢中になっている。私も好きで必ずやった。1ゲーム五十円。小雨が服をしめらせていく。空の冷たさ。私達が繰り返し生きてきた道の、長ようで瞬くような時間。
家に帰り、姉夫婦と弟夫婦と庭でテントなどはってバーベキューをして、お別れの夜を過ごす。