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人間になればよかった...
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東京に戻る日。長く留守にするので旅支度に手間取る。家中に点在している私物を見つけてトランクに詰めるのは、難易度の高い宝探しゲームだ。あれもこれも、どこにしまったのやら、探しているうちに家の中を何周もしている。はっと気がついて、机の上に置いたままの食べかけの団子の存在を思い出し、串を頬ばって片付ける。危ないところだった。メガネだとか、靴下だとか、どこに消えたのか判らない。こんなに探しても出てこない宝など、もういらんと思い、幾つかを置き去りにしたまま出発することにする。
お昼過ぎにI駅でお別れ。家族総出で送ってくれるのが嬉しい。夏休み中盤にまた会う約束だ。子供達は喧嘩もせず、さよおなーらーと言う。それでは行ってきます、と私が言うと、大人達まで両手をふって応えてくれた。座席につくと元気でねえーと声がする。遠ざかっていく電車の窓から、子供達が線路沿いをどこまでも走って追いかけてくるのが見えた。
……一時間後、目を覚ますともう着いた。心はまだ茨城だ。上野駅はむっと暑い。東京の街が何故か茨城のトウモロコシ畑の記憶と重なる。心がまだ茨城だ。山の手線の先頭車両に乗ったら、銀色の線路がどこまでも続いているのが見える。
夕方、自宅でおぬまさんと会う。娘が抱きついて再会を喜んでいる。私は抱きつく訳にもいかないから黙ってニヤニヤした。一週間なにもなかったな、と言っているおぬまさんには、見た目もそれ程の変化はないようだ。私の方はかなり肥ったのだが。
部屋もほとんど綺麗なままで、観葉植物も枯れていなかった。なんと、水をやってくれていたのだ。つくづくおぬまさんは優しくなったと思う。
夜はもんじゃ焼きの店に行き、三人で再会の乾杯をする。帰り支度をして会計に立ったら、最後の焼きそばをまだ出してませんでしたと店員さんに謝られ、あわてて座席に戻って、生のそばを受け取る。
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防犯セキュリティは猫の身長位では鳴らないそうだ。では、真犯人は何処にいるのだろうか。私は昨夜の猫をまだ疑っている。だって犯人かって聞いたら、にゃあんて言ったもの。言ってないけど。
本日、賑やかな子供達はボケモンの映画を観に出かけた。がらんどうになった畳の部屋で、我が娘が背中を落として座っている。諸事情でやむなく別行動をとった訳だが、娘のしょげようといったらない。私は今日娘に何かいい出来事をプレゼントしようと決めた。近所のスーパーにあるゲームコーナーは娘が最も好きな場所の一つだ。100円を5枚渡して、今からこれでゲームをしにいこう、と言うと娘の顔にぱっと光がさした。私は自分の子育てに不安を感じる。だけど、娘が飛び上がる程嬉しがる出来事を他に知らないのだ。
店に着いたら丁度10時で、入口では沢山の大人達が開店を待っていた。自動ドアが開くと同時に、娘は勢いよく中へ駆けだしていった。
私は人を苛めるのは疲れるから嫌いだが、自分に対しては遠慮なく自虐してきた。失敗に事欠かないから種は尽きない。私が自虐の苦い味を噛みしめて悦に入っていると、娘だけはそんなことやめてと言う。私は彼女から愛されているらしい。愛しているが、される方に関してはよく判らない。最も恐ろしい空想は娘の死である。妊娠、出産と同じ位、自分の死は、対象が自分なら、死んでみると苦しいながらも、為せば成ることなのは明白だ。だけど、娘だけは、永久に生きてほしいと思う。これはエゴなのだろうか。
娘を忘れてスーパーで買い物。今晩のおかずは餃子にしようと、買いもらしがないか何度も頭で確認する。大人数だからすべて普段の倍量だ。重たい袋を下げてゲームコーナーに行ってみると、全身を使ってゲーム機のボタンを叩いている娘の後ろ姿が見えた。
明日は東京に戻る。明後日はもう北海道に飛ぶ。今夜でここの皆とはしばらくお別れになる。
夜、おぬま妹さんと餃子70個作る。白ネズミが並んでいるようだ。どこかの国でも餃子をラットケーキと呼ぶらしい。ホットプレートで焼いて、こんがりと奇麗な焼き目がついたところを皆で食べる。
小沼邱から車で5分の場所におぬまお父さんの墓地がある。今日は大人達だけでお墓の掃除に出かけた。
車から下りると、石に掘られた『小沼家』の文字が目にはいる。相変わらず風景がとてもいい。田んぼの上を渡る涼しい風が吹いてくる。生前のお父さんはこの場所をとても気に入っていたということだ。
バケツをぶら下げて、旧式の手押しポンプの井戸で水を汲みに行く。きこきことハンドルを力一杯上下させると、清らかな水が突然ダバッとあふれた。
貴重な水を節約するようにして、墓石を磨き始める。炎天下の為に枯れてしまった供花の茎には沢山のカタツムリがついている。カタツムリは普段好きな生物だが、こんな風にびっしりだと無気味だ。掃除しても幾つでも出てくる。黄緑の殻で見たことのない種類だ。カタツムリを掃除しながら、透明な水にスポンジをひたして、注意して墓石を磨く。
死後の事実。直に受ける痛ましさ。人の手が入らなかったらたちまちの内に朽ちていく。私もここに入るのだから自分の運命でもある。生きている者の空想にすぎないのだろうか。弔うなんていうことが。
だけど、空想であってもいい筈だ。カタツムリが這うに任せるという空想を選ぶ訳にはいかない。生きている人の身体にするように丁寧に磨く。濁った水を捨ては汲み、捨ては汲みして、澄んだ水を繰り返し使う。手のひらを使って、少しずつかけていく。最後には何もかもが清潔になって、墓はすっかり見違えた。みなで仕上がりを眺めた。車に乗り込む前に振りかえると、濡れた『小沼家』の字が風景とよく調和していた。
夕方、子供達と一緒に回転寿司に行く。家中の雨戸を閉めて、念入りに用心して家を出た。一時間後、満腹になって帰宅すると、玄関の足元に黒い影が走った。影はさっと素早く駆け出して、警報システムの前で振り返った。猫である。泥棒の正体はおまえなのか、と心で問うと、猫は黙って瞳を光らせている。
日記書いたあと深夜、家の防犯セキュリティのベル音がけたたましく鳴り響く。布団から飛び起きて、カーテンを少しあけてみるが、真暗い闇しか見えない。廊下に向かうと、家中の大人が集まりだしていた。といっても、おぬまお母さんと妹さんの女三人だけ。ベルを手動で止めると、しんと静かになる。
数年前、泥棒に入られた事をきっかけにこの家には防犯装置がついている。侵入者が赤外線を越えるとベルが鳴るといった仕掛けだ。廊下でそれぞれしゃがんで原因を推測しあうが、判る筈もない。妹さんは外に出て見回ってみようかという。私もそうだ、とパジャマ姿で思うが、もし誰か人がいて鉢合わせしたら余計危ないとお母さんが言う。結局、部屋中の電気をつけて、居間になんとなく集まり、お茶を淹れだした。
深夜のテレビをつけると、選挙の開票結果をまだやっている。こんな時間までやるんだなあと思う。キャスターの目もこころなしか腫れぼったい。ぽつりぽつりと、泥棒ではなく犬猫が通っても鳴るだとか、万一部屋で出くわした時の心構えなど、座談会になる。前回侵入した泥棒は、中国の大窃盗団グループだったらしく、現金を幾らかと私の婚約指輪を盗んで去って行ったが、一年後に警察に掴まった。指輪は中国本土に渡ったらしい。窓外は暗いまま何の音もない。時々ガラスにおでこをつけて、本当に異常がないかを何度も確かめる。
子供の様子を見に行く。子供達は布団の上でそれぞれの姿勢をとって眠っている。あれだけの大音響で全く目を覚ました形跡がない。話は次第に子供達の寝ぐせなどに脱線していき、笑い話などでる。
とにかく日ごろから用心に用心を重ねて暮らすことだ、という結論が出て、温かいお茶を湯のみにつぎ足す。 ……
朝はお天気悪し。雨まで降っている。こういう日はあまり見ないテレビをつけるが、選挙のニュースばかりだ。子供達に昨日のベルの音覚えてる?と聞いたら、なにが?と不思議そうに見る。全く呑気な人達だ。ここはやはり大人達が結託して守らなくてはならない。セキュリティをさらに万全にする対策をとることにした。
夕方、磯から捕ってきたヒトデやヤドカリが、みな死んでいた。海水のもとや餌を一式揃えて、長く飼うつもりでいた妹さんは残念そうにしている。異臭がひどかったので、二人で庭の隅に埋葬することにした。人は共に修羅場をくぐる事で仲良くなるらしい。私がスコップで土を堀り、妹さんが中身を埋める。昨夜のベルのせいか、作業の息が妙にぴたりと合うのがおかしい。
子供達は私の存在に慣れてきた。そして、言うこときかなくても、怒ったり叩いたりしてこない人だと気がついた。訪れたのは、途方もない無秩序のカオスである。怪人に化けたってもう誰も怖がらず、逆に尻とかをめった打ちにされていたかった。だから今日は、ちょっと疲れた。
日中はコンビニに食料を買いに行ったり、娘の習い事の送り迎えをして過ごす。自分自身でいられる時間は、運転の時だけだ。単純に、一人になる時間に飢えている。大声で歌をうたって、気分転換する。
貧しさに 負けた
いいえ 世間に 負けた
自分は一人になって、色々考える事がすきなのだが、それが出来ないと、途端に窒息してしまうのだ。
夕方、子供達はどういう心境の変化か、競って手伝いをしてくれた。お皿はこび。おかずの配置。テーブル拭き。みんないい子達だ。夜、子供達に怪談をしてやると、ブルブル、とか、キャー、とか、画に書いたような怖がり方をして、面白い。
子供たちは布団の上でそれぞれの姿勢をとって眠っている。明日は海水浴に行く。今日一日の出来事を今思い返してみると、子供達はわたしがどんなヤツかを試していたのではないかと思う。
たいへんに暑い。移動する車窓には、田んぼの緑が延々と広がっている。BGMはディズニーの曲で、後ろの座席は子供達の騒ぐ声だ。興奮しすぎて取っ組み合いの喧嘩をしている子供達を引き連れて、近所の超大型ショッピングモールへ買い物に行った。
オープンして一年も経たない建物内は清潔で、巨大な通路の両サイドには眺め切れない量の店舗が並んでいる。夏休みシーズンの割には客はがらがらだった。ファミリー向けの季節物コーナーで、浮き輪、ビーチサンダル、虫とり網などを次々と選ぶ。小さな選択でも気に入ったものが見つかると嬉しい。子供達はどこにでも駆けていく。
下の食堂で騒がしいランチを食べてから、子供達のお目当てであるゲームコーナーへ。お金ちょうだい、と手を出してくる我が娘の、私を見る目つきが脅迫めいている。
お金がないと、どうやって遊んだらいいか判らない子になってしまうと、ゲームが終わるのを待ちながら、ぼんやり考える。つい最近まで大行列だったラブ&ベリーの機械の前はひとりもいない。だいたい、子供にかこつけて大人が相当数ここで遊んでいるのはどういう訳だ。事情は別に聞かないけれど。
一人の男の子が、つり銭の場所にひとつひとつ指を入れて、残ったコインがないか確かめながら歩いてきた。ベンチに座っていた私の前の一台だけを避けて、また黙々と別のゲーム機のつり銭捜しをしながら行ってしまった。遊びたくて気が狂いそうな顔だった。私の横で、ゲーム画面のラブが、私をおしゃれにしてねと繰り返し喋っていた。
夜、買ってきた浮き輪にしこしこ空気を入れてやると、子供達は大喜びだった。日記をつける体力を回復させる為に、目を閉じてヨガの呼吸をしていると、娘達から謎の紙切れが強引に渡される。『なんで遊びにこないのよ!!はやくきて、すてきなショーがはじまりますよ。場所はココ(手書きの地図付き)』無理やり連れていかれて、へんな芝居とテニスボールのショー(?)を見せされた。さあどうぞ、と振る舞われたコップの中身は水だった。
子供たちは布団の上でそれぞれの姿勢をとって眠っている。……また明日も起きてくるんだろう。ヨガの呼吸でエネルギーを補給しながら、いつの間にか居眠りする。
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