今日は一日で三日分くらいの出来事が起きてしまった。日記をつけていると、こういう日は一つに焦点を絞る事が出来ずに文章が蛇行してしまう。バイキングでお皿にお料理とりすぎた、みたいな日。ひとつだけ飛び抜けて嬉しかったのは、お母さん友達の電話で、離婚を回避する兆しが見えたこと。多分これが本日のローストビーフだ。
日常は前進しながら後退している。成長しながら歳をとっている。今日のように、道の途中に捨ておかれていくガラクタのなんと多いことだろうか。人生は全てがかけがえのないもので出来ている事を信じて、私という人間もなるべくしてここまで来ているのだと考えたい。この道がどれほど幼稚な軌跡で、厚顔で、鈍い感性で出来上がっていたとしても、その半生を自分一人だけでも慈しもうと考えている。また他人にとっては何の価値もない思い出、記憶、好きだったもの、通り過ぎて行ったもの、全てを大事に抱えていこうと思う。いずれ薄くかすれていく様々な痕跡も、私にとっては唯一のものなのだから。そして私以外の者にとっては全て単なるガラクタに過ぎないのだから。
日常は前進しながら後退している。成長しながら歳をとっている。今日のように、道の途中に捨ておかれていくガラクタのなんと多いことだろうか。人生は全てがかけがえのないもので出来ている事を信じて、私という人間もなるべくしてここまで来ているのだと考えたい。この道がどれほど幼稚な軌跡で、厚顔で、鈍い感性で出来上がっていたとしても、その半生を自分一人だけでも慈しもうと考えている。また他人にとっては何の価値もない思い出、記憶、好きだったもの、通り過ぎて行ったもの、全てを大事に抱えていこうと思う。いずれ薄くかすれていく様々な痕跡も、私にとっては唯一のものなのだから。そして私以外の者にとっては全て単なるガラクタに過ぎないのだから。
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昔、真新しいズボンに、「LLL」と書かれたシールをつけたまま、エスカレーターに乗っていた見知らぬ男性がいて、真後ろにいた私はその人に声をかけたことがある。その人は、うわっ、恥ずかしいな、と軽く笑って、その場ではがした。大変難しい作業だったのだ。声をかける技術と、なるべく平気そうに笑う技術は。私はその見知らぬ男性がしてくれた演技に、今でもありがたさを感じている。
今日わたしは、違う人が真新しいズボンに「LLL」と書かれたシールをつけたまま、歩いているのを見たのである。私は声をかけなかった。自分がしたことは親切ではないと思ったのである。本当にこれで良かったのだろうか。良いか悪いか今考えてみても判らない。日記を書く今になって、ますます判らなくなってきて、困っているのである。
今日わたしは、違う人が真新しいズボンに「LLL」と書かれたシールをつけたまま、歩いているのを見たのである。私は声をかけなかった。自分がしたことは親切ではないと思ったのである。本当にこれで良かったのだろうか。良いか悪いか今考えてみても判らない。日記を書く今になって、ますます判らなくなってきて、困っているのである。
朝、誰かの怒号と罵声で目が覚める。居間に向かうと、サッカー中継の最中だった。
おぬまさんが元気いっぱいで応援に励んでいる。日本対スコットランドだった。私は音をたてないようにおにぎりと味噌汁を作り、起きてきた娘に食べさせた。
おぬまさん始め観衆の本気度はただ事ではない。一方私はというと、綺麗な緑の芝だなあと思うだけの人間である。皆で戦争やってるみたい。
これだけの観客の血走った目を一身に受けて、選手に蹴られているあのボールは何か考えているのかも知れない。内心はどちらの国を応援しているのか。
……に、ほ、ん。……に、ほ、ん。
「今日は、日本に運が向いている」とおぬまさんに言うと、おぬまさんは画面から目を離さずに小さく頷いた。
娘は学校に行き、私は茶碗を洗い始めた。絶対に負けられない戦いがそこにあった。サッカーはいつも絶対に負けられない戦いばかりしているな。もし勝ってくれたら、平凡ながらよい一日になりそうな気がした。
テレビからわあっと歓声があがり、ボールは高々とゴールの遥か上を越えて、明後日の方向へ行ってしまった。
おぬまさんが元気いっぱいで応援に励んでいる。日本対スコットランドだった。私は音をたてないようにおにぎりと味噌汁を作り、起きてきた娘に食べさせた。
おぬまさん始め観衆の本気度はただ事ではない。一方私はというと、綺麗な緑の芝だなあと思うだけの人間である。皆で戦争やってるみたい。
これだけの観客の血走った目を一身に受けて、選手に蹴られているあのボールは何か考えているのかも知れない。内心はどちらの国を応援しているのか。
……に、ほ、ん。……に、ほ、ん。
「今日は、日本に運が向いている」とおぬまさんに言うと、おぬまさんは画面から目を離さずに小さく頷いた。
娘は学校に行き、私は茶碗を洗い始めた。絶対に負けられない戦いがそこにあった。サッカーはいつも絶対に負けられない戦いばかりしているな。もし勝ってくれたら、平凡ながらよい一日になりそうな気がした。
テレビからわあっと歓声があがり、ボールは高々とゴールの遥か上を越えて、明後日の方向へ行ってしまった。
目が覚めたら、本当に頭のてっぺんから草が生えていた。今日の茨城は曇り空で涼しい気候。
庭で雑草にまぎれてしばらくしゃがんでいた。頭頂部の草がゆれて涼しい。わたしの頭はなにも考え出そうとはしなかった。目に映ったものは、植木と、枯れ草と、庭石だった。前世というものがもし存在したなら、私のそれは人間ではなかったことは確実だ。わたしは人間の記憶を何も持ってはいなかった。高らかに鳴る。天の和音。ああ、どこにでもいる鳥が、絵にならない感じで頭上を飛んでいく。
あかるく、でたらめで、最後にはふしぎで美しさがあるもの。世界で沢山の人が様々な時間を過ごしている。でも私の目はひとつの窓しか見られない。ああ、絵にならない鳥よ。あなたに勝手に色をつけていいか。……
夜ごはんのメインはコロッケとサラダ。サラダの具が足りなくて頭の草をむしりとって入れた。どうせむしっても幾らでも生えるのである。明日になれば、薮ぼうぼうになっているだろう。実でも種でもつけるがいい。
庭で雑草にまぎれてしばらくしゃがんでいた。頭頂部の草がゆれて涼しい。わたしの頭はなにも考え出そうとはしなかった。目に映ったものは、植木と、枯れ草と、庭石だった。前世というものがもし存在したなら、私のそれは人間ではなかったことは確実だ。わたしは人間の記憶を何も持ってはいなかった。高らかに鳴る。天の和音。ああ、どこにでもいる鳥が、絵にならない感じで頭上を飛んでいく。
あかるく、でたらめで、最後にはふしぎで美しさがあるもの。世界で沢山の人が様々な時間を過ごしている。でも私の目はひとつの窓しか見られない。ああ、絵にならない鳥よ。あなたに勝手に色をつけていいか。……
夜ごはんのメインはコロッケとサラダ。サラダの具が足りなくて頭の草をむしりとって入れた。どうせむしっても幾らでも生えるのである。明日になれば、薮ぼうぼうになっているだろう。実でも種でもつけるがいい。
つらすぎる相談から一夜明け、目が覚めるといつもの部屋だった。昨日の自分と感情がうまく繋がっていない感じがする。まるで別人の知らない人の身体に宿借りしているみたい。起きるなり手を洗う。水に触れると手が痺れる。
リラックスして過ごそうと思う。人生に思い悩む事も勿論大切だけど、上機嫌でいると色々な事が上手くいく。自分が男性ではなくて、女性として生まれたことを忘れないようにしよう。闘争心や、厳しさ、男性の運命とはきっと違う筈だ。放っておいたら宇宙の果てまでも行きたがるような男性の背負う宿命の重さと、自分を比べてみても、きっとうまくいかない。
私は近所の農協に行き、緑の草やら花やらでいっぱいのコーナーに初めて行ってみた。花の優しい色を何も考えずに楽しむ。隣の見知らぬおばあさん達がお喋りに夢中になっている。自分も身体の芯が和んで、ふっと緊張の糸が抜ける。このまま頭のてっぺんに草を生やして、この緑の園にまぎれて暮らしてしまいたい。
夕方、回復して茨城に出発。
リラックスして過ごそうと思う。人生に思い悩む事も勿論大切だけど、上機嫌でいると色々な事が上手くいく。自分が男性ではなくて、女性として生まれたことを忘れないようにしよう。闘争心や、厳しさ、男性の運命とはきっと違う筈だ。放っておいたら宇宙の果てまでも行きたがるような男性の背負う宿命の重さと、自分を比べてみても、きっとうまくいかない。
私は近所の農協に行き、緑の草やら花やらでいっぱいのコーナーに初めて行ってみた。花の優しい色を何も考えずに楽しむ。隣の見知らぬおばあさん達がお喋りに夢中になっている。自分も身体の芯が和んで、ふっと緊張の糸が抜ける。このまま頭のてっぺんに草を生やして、この緑の園にまぎれて暮らしてしまいたい。
夕方、回復して茨城に出発。
穏やかさが一変した夜。
深夜にお母さん友達から電話あり、離婚相談の話で2時間。どうにも紐が絡まっている。どうやっても話の要点を整理することが出来ない。相談相手は次から次へと自分の紐をたぐっている。話を相手に聴いてもらう事で頭を整理するのだ。相手と一緒に悩んではいけないし、相手を映す鏡にならなければと思うのだけど、うまく誘導できない。同じ所を巡る、苦しい紐のからまり。
電話を切ってみると、自分の何もかも気力を使い果たしている。必要とされている助けには限りがないように思え、砂漠の砂地に水を撒いていたような無力感だけが残る。
あの人は電話を切った後どうするだろうか。自分には判らない。
今日は書く力が残っていない。そのまま日記にして、行こう。
こんな日はいつも明日ばかり思う。明日を軽々と越えていきたい。
深夜にお母さん友達から電話あり、離婚相談の話で2時間。どうにも紐が絡まっている。どうやっても話の要点を整理することが出来ない。相談相手は次から次へと自分の紐をたぐっている。話を相手に聴いてもらう事で頭を整理するのだ。相手と一緒に悩んではいけないし、相手を映す鏡にならなければと思うのだけど、うまく誘導できない。同じ所を巡る、苦しい紐のからまり。
電話を切ってみると、自分の何もかも気力を使い果たしている。必要とされている助けには限りがないように思え、砂漠の砂地に水を撒いていたような無力感だけが残る。
あの人は電話を切った後どうするだろうか。自分には判らない。
今日は書く力が残っていない。そのまま日記にして、行こう。
こんな日はいつも明日ばかり思う。明日を軽々と越えていきたい。