おぬま妹さん家族は、夜の10時に大阪に帰っていった。ちびっこ達がいなくなった家の中は急に静まり返って、もう何の音もしない。
悔いなし。はたらいた一日。口もきけない程疲れて、気がゆるむと寝ている。体力の残量がない。まぶたを洗濯ばさみで止めて日記をつける。日記の難しいところは、自分の気力を一定量残しておかないと、深夜になって完全に自分の時間に戻っても、もうすでに手遅れになってしまうことだ。音もなく色もない字の世界は、自分が無色透明にならないと、字が走って逃げる。書くべき瞬間を逃がしてしまう。逃がした時は、網でやみくもにすくうしかないのだが、さらっても字が出てこない、という結果になる。魚をとるのと似た作業である。いる場所を捜し、よい道具で、正確に無心になって水の下をさらう。自分自身が臭気やアクにまみれた人間であることと、無色透明になろうとして水を見つめる努力とは、全然別個の話である。
静けさにまかせて、何も考えずに指を動かしている。書くべき瞬間に書かないと、字が現れないのはわかっている。だから、今指を動かしているこの運動は、私の未練だ。今夜もタイムリミットだ。
悔いなし。はたらいた一日。口もきけない程疲れて、気がゆるむと寝ている。体力の残量がない。まぶたを洗濯ばさみで止めて日記をつける。日記の難しいところは、自分の気力を一定量残しておかないと、深夜になって完全に自分の時間に戻っても、もうすでに手遅れになってしまうことだ。音もなく色もない字の世界は、自分が無色透明にならないと、字が走って逃げる。書くべき瞬間を逃がしてしまう。逃がした時は、網でやみくもにすくうしかないのだが、さらっても字が出てこない、という結果になる。魚をとるのと似た作業である。いる場所を捜し、よい道具で、正確に無心になって水の下をさらう。自分自身が臭気やアクにまみれた人間であることと、無色透明になろうとして水を見つめる努力とは、全然別個の話である。
静けさにまかせて、何も考えずに指を動かしている。書くべき瞬間に書かないと、字が現れないのはわかっている。だから、今指を動かしているこの運動は、私の未練だ。今夜もタイムリミットだ。
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