相棒に夕方から娘を預かって貰って仕事をした。仕事はまだ火がとろ火で、中身が燃え上がるまで進んでいない。周囲に人がいると書けない夕鶴タイプなので、相棒の助けが本当にありがたい。二人は映画に行ってくるといって、手を振って出かけていった。誰もいなくなった部屋で、閉めきった部屋で一人、機織りみたいに字を書いていく。まだ判らない空白が沢山ある。
昔は恥ずかしい話だけど、食べて、吐いて、高温の風呂に入って、寝て、書いて、食べて、吐いて、というサイクルを延々繰り返して書き物をしていた。だから仕事をしたら物凄く痩せた。良い書き物があがる訳ではなく、ただ自分の弱さからそうやっていたのだが、今は家族もあり、性格も多少は変化したので、そういう自虐的なやり方はなくなった。ただ自分は書くことにすがってここまで来た人間で、思い返してもあの当時はそれで仕方がなかったように感じている。今はもっと違う世界の見方で、もう少しまともな動機から字を綴りたいと願っている。今日は楽なペースで進める事が出来て、ほっとした。
昔は恥ずかしい話だけど、食べて、吐いて、高温の風呂に入って、寝て、書いて、食べて、吐いて、というサイクルを延々繰り返して書き物をしていた。だから仕事をしたら物凄く痩せた。良い書き物があがる訳ではなく、ただ自分の弱さからそうやっていたのだが、今は家族もあり、性格も多少は変化したので、そういう自虐的なやり方はなくなった。ただ自分は書くことにすがってここまで来た人間で、思い返してもあの当時はそれで仕方がなかったように感じている。今はもっと違う世界の見方で、もう少しまともな動機から字を綴りたいと願っている。今日は楽なペースで進める事が出来て、ほっとした。
つくづく仕事に自信がないタイプの人間だ。書き始める前は常に不安を感じる。入口がまるで真黒い洞窟のようだ。こんちはー、と声をかけると、実に薄気味悪い、動物のような咆哮がかすかに返ってくる。怪物起きてるよ。びびってしまう。楽しいだとかやり甲斐があるだとかは、うまくいけば楽しいし、いかなければ瀕死の重傷だ。最悪は…最悪の時だってある。万一失敗したら?頼んだ人をがっかりさせるなんて?何もやらない方がましじゃないかな?
まあそうびびらずに。目をつむると余計に怖いから。失敗して食べられる時は、自分から身を差し出して合掌しよう。先日テレビで観たライオンに組み付かれたシマウマは、完全に気絶して、すでに痛くもなさそうだった。
神道について資料を読んだりして、この夜を過ごす。まだ企画書の紙は八つ折りのまま。
まあそうびびらずに。目をつむると余計に怖いから。失敗して食べられる時は、自分から身を差し出して合掌しよう。先日テレビで観たライオンに組み付かれたシマウマは、完全に気絶して、すでに痛くもなさそうだった。
神道について資料を読んだりして、この夜を過ごす。まだ企画書の紙は八つ折りのまま。
書き物の仕事をしないといけない。下準備を始める。監督から送られたあらすじを読む。どんな話で、どう終わるかが、堅い四角い文章で書いてある。紙をカメラアイのように遠目からはっきり眺めて、第一印象を覚えておく。それが全ての作業のベースになるからだ。どこに違和感があって、どこが熱っぽく書かれていたかもその時覚えておく。もし何の印象も残らない紙であった場合、引き受けると苦労は倍以上になる。労多くして功少なし。
あとはその紙を下に敷いて、昼寝をしたり、枕の隙間に入れたり、鞄に入れたり、台所に持ち込んだりする。あんまり読まないこと。二つ折りにしたり、四つ折りにしたり、八つ折りにしたりして、それとなく身辺に置いておく。
仕事中は、気になっていた本が読みたくてたまらなくなる。未見の映画も同様。それは現実逃避なので、実際に読んではいけない。時間を大きくロスするだけだ。知っていても読んで、案の定ロスする。この時点では、ご飯は普通に食べられる。
あとはその紙を下に敷いて、昼寝をしたり、枕の隙間に入れたり、鞄に入れたり、台所に持ち込んだりする。あんまり読まないこと。二つ折りにしたり、四つ折りにしたり、八つ折りにしたりして、それとなく身辺に置いておく。
仕事中は、気になっていた本が読みたくてたまらなくなる。未見の映画も同様。それは現実逃避なので、実際に読んではいけない。時間を大きくロスするだけだ。知っていても読んで、案の定ロスする。この時点では、ご飯は普通に食べられる。
昨日報道された事件の犯人は、朝に死んでいた。地獄とはどんな場所だろうかと思うばかりだ。
土曜、義母と娘と三人で、近所の巨大ショッピングセンターへ出かける。暖かい静かなテラスで沢山のお客さんが食事をとっている。買えるあてもない商品群を眺めながら、義母の足の神経痛に合わせてゆっくりと歩く。今日一日を和やかに過ごすために、私は自分の力を使おう。明るい天井を見上げたら、贋の鳥がディスプレイされていた。
売り場をはしゃいで歩く娘と、財布の残金を計算している私、孫の喜ぶ顔に幸福を感じている義母。あの場所に一体に溶け合って、誰にも見つからず透明になって、息をした。義母に娘の服を何枚か買ってもらって、昼食にはもんじゃ焼きを食べた。
二度と繰り返されないこと。起きたら決して取り返しがつかないこと。もうそれだけで現実は無限の悪夢よりも厳しい。今日。今日の日。贋の鳥。
土曜、義母と娘と三人で、近所の巨大ショッピングセンターへ出かける。暖かい静かなテラスで沢山のお客さんが食事をとっている。買えるあてもない商品群を眺めながら、義母の足の神経痛に合わせてゆっくりと歩く。今日一日を和やかに過ごすために、私は自分の力を使おう。明るい天井を見上げたら、贋の鳥がディスプレイされていた。
売り場をはしゃいで歩く娘と、財布の残金を計算している私、孫の喜ぶ顔に幸福を感じている義母。あの場所に一体に溶け合って、誰にも見つからず透明になって、息をした。義母に娘の服を何枚か買ってもらって、昼食にはもんじゃ焼きを食べた。
二度と繰り返されないこと。起きたら決して取り返しがつかないこと。もうそれだけで現実は無限の悪夢よりも厳しい。今日。今日の日。贋の鳥。