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人間になればよかった...
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30歳で始めたバレエは、自分の健康の為にやっているだけだとしたら、少し熱くなりすぎている。今日は近所のストレッチ教室に行き、B先生のレッスンを受けてきた。ほんの少しの踊りの訓練で、すっかり幸せになって帰ってきた。上機嫌でシューズの手入れをしながら、もっと踊りたいなと思う。たぶん、中毒だ。
身体が言うことを聞くようになってきて、意のままにコントロールする楽しさというのを、初めて知ったせいではないかと思う。過去には文化系の部活しかやったことがなく、不格好な肉体にコンプレックスしか持っていなかった。自分の足の小指がどこについているかすら、以前はまったく判らなかった。今は触ると、ここにも意識が入ってる、と思えるようになった。バレエを始めた直後も、身体を力任せに伸ばして、無理矢理言うことをきかせようとしたり、結果を焦っていた頃は、わたしは、わたしの身体をまだ持っていなかった、ということが言えるのかも知れない。
始めてみると、もっと早くに始めていないとダメだと知るからくりは、やはり寂しい。でも知らない内に、沢山のものをすでに持っていたということもあるようだ。自分がこの手に握りしめている内容を、自分で判っていないのかも知れない。歳をとっていくと、色々なものをいつの間にか無くしている。無くす、というのは、持っていた、ということの唯一の証なのだろうか。何を大切にするかを知るだけで、相当のなくしものが必要ではないかと思う。
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電車を乗り継いで、I駅にあるバレエ教室へ。最近はやたら踊っている気がする。身体は刻々と変化していて、柔らかい筋肉が少しずつ育ってきた。持病の腰痛も軽くなり、身体を二つ折りにするのは朝飯前だ。反面、胸苦しさが湧き出す夜には、ストレッチして解消する事を学んでしまった。これはいいことか悪いことか判らないけれど。
今日はS先生が姿勢の細かい指導をしてくれた。私は背筋の力が足りないようだ。バレエでは引きあげて、という指示がよく出る。バレリーナの背中は筋肉で盛り上がっている。いつも上へ上へと向かっている人体の使い方は、人間の最も美しい世界との向き合い方であるのだろう。ただそれは反自然な厳しい生き方には違いない。
S先生が、素人の自分の身体をよく見てくれ、癖や性分を含めた上で言葉をかけて下さるのが嬉しい。先生に手をひかれて、少しずつ、出来ることが増えてきた。
大勢の人達にまじって電車に揺られていると、見慣れた空とビルが後ろへと流れていく。色々な人が暮らしているなあと思う。世界の仕組はわからないし、わからなくてもいい。知り得ないし、知らなくても良い事だ。大切な事はここにいる事なのだから。
駅を歩く人を眺める。革靴を脱いで靴下を履いている人がいた。
バレエ教室では、いつものように服を着替えたり、お喋りしているお母さん友達がいて、自分は隅の方でタイツなど履く。最近どうですかーと、Eさんが声をかけてくれた。調子が悪い日が続きすぎて、なにがなんだか分かんない、と正直に打ち明けると、私もすっごい調子悪いの、と眉をしかめて言う。それが本当に調子悪そうな感じがにじみ出ていて、妙におかしくなって、なんだか今日は自然に踊れる気がした。
音楽が始まると、自分は踊りの奴隷になって、腕の角度や膝の向きの隙を追い出すことに夢中になった。時間は忘れる為にある。操作など計画するより忘れよう。鏡の隣ではEさんが美しい脚線を真直ぐに伸ばして踊っていた。少しも調子悪い感じなどしない。同じ仕草をしてふわりと下りた。
夕方、離婚に悩んでいたお母さん友達の娘さんを家で預かる。娘さんは自分のスカートの裾にすがるように甘えてくる。娘の見慣れた目とは違う、小さな瞳が茶色かった。夜にお母さん友達がお迎えに来る。明るくなっているのが嬉しい。細々とした日常の話をして、笑い話になって別れる。
歩くと足が少し痛む。午前中は電車に乗ってバレエ教室へ行く。先生のご都合で、明日やる筈のレッスンが一日早まったのだ。こんなにレッスンばかりしてたら、すっごく上手になれるかも……などと夢想する。いつか人前で踊っちゃったりして。きゃん。……そういえば昨日おぬまさんに「2カ所に通おうかと思うのだけど」と相談したら、即座に「アホだ」と言われたのだった。確かに冷静になれそうだよ。ありがとうおぬまさん。
教室にていつものレッスン。関節に油を差したように身体が楽に動く。それに昨日別の稽古場を体験できたことで、今通っている教室のカラーも判って、あらためて講師のS先生に感謝の思いが湧いてきた。先生が教室を開き続ける限りは、いつまでも参加していきたい。
……帰り道、ふわふわと雲の中を歩くようだった。どこに向かっているのかしらん。離婚を悩むお母さん友達も、H町の親しい友人も、まるで計ったように同時に連絡をくれていた。そしてどちらも状況は悪くなっていた。自分のアドバイスは無益だったのかも知れない。そうだとしても、私は私の出来ることをするだけなのだ。夢がすっと醒めて、醒めて、やがてまた夢に再浮上する。人は夢見ながら生まれてくるのだろう。私は誰かの人生を担うことはできない。夢を思い出すには媒体がいる。二人は自分を鏡にして話す事で、元々持っていた夢を思い出したがっているのだろうか。
ふわふわと電柱にぶつからないように歩く。歩けばどっかに着くだろう。道路の白線が、延々と足もとをゆるやかに辿って、はるか彼方まで続いている。
役員をしていたら意外な出会いもある。背の高いBさんと雑談していたら、なんと普段はバレエの講師だそうだ。ストレッチとバレエ教室をご自宅で開いているとのこと。灯台もと暗し。レッスン曜日も現在の教室と重なっていない。とてもいい機会だと思い、体験をしに初めて教室にお邪魔した。
ご自宅の地下に作られた稽古場には、鏡が二面についてバーもあり、床も踊り専用の木板で出来ている。バレエを習いだしてから他の先生に指導を受ける機会は一度もなかった。他の生徒さん達に挨拶したあと、ぎこちなく着替えをすませる。和やかで、楽しい会話が飛び交う、ゆったりした教室だ。体中を伸ばしながら同時に全身を鍛える運動を行う。ストレッチが7、バレエが3の比率くらいの運動量で、身体の負担も軽い。
……昔、尊敬していたシナリオライターのK先生が、ヨガを始めて健康になったと言っていた。ヨガの講師に目を閉じて最も素晴らしい事を考えなさい、と指導された時、最上のイメージがひとつも思い浮かばず、レベルを下げて下げて、下げて、それでもネガティブな想像しか出なかったそうだ。それが今では毎日がまるで変わったんだよ、焦らなくなったんだ、と血色のいいお顔で晴れ晴れと私に言ったのだった。不遜にも、私は、その話をきいて(それは、ライターとしてはまずい事ではないだろうか)と思ったのだった。自分の身体を健康にしたら、良い仕事が出来なくなるではないかと。煙草スパスパ徹夜の〆切地獄が傑作を生むとは限らないけれど、肉体と精神の間には相関作用があって、安定した朗らかな心は、人間の愚かな苦悩を浄化してしまうのではと……恐れたのだった。今、自分はバレエの上達を目指しながらも、K先生の晴れ晴れしたお顔を思い出し、自問自答するのだ。……
慣れなくて知らない動きばかりだけど、やってみるとなんとかついていけた。女性の腕の美しい曲線が一斉に動く。健康って、きれいだ。
扇風機を回して寝たら、悪夢を見た。私はテントの中で野営キャンプをしている。物凄い竜巻がだばだばだばだば音をたてて、テントを吹き飛ばそうとする。四隅を手で押さえて必死で抵抗するが、風が物凄い。だばだばだばだば……テントごと吹っ飛ばされそうだ。万事休す。目が覚めた。……目が覚めるなり、コンセントを抜き取った。
嵐の予感の中、バレエに行く為にI駅へ。水曜だった教室は今週から木曜に変更されることになった。レッスン時間も増えて、新しい生徒さんも入会した。自分はいつの間にか古株さんの扱いになっているらしい。この教室では一番古い人になってしまった。鏡の一番見えやすい所、に立っていたり、先生と気安い口をきくのが古株のなれの果てなら、決してそういうことはするまい。
雨風の中、みんなでバレエ。
欠陥だらけの美しさを、毎週こつこつと積んでいくこと。
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