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人間になればよかった...
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小沼邱から車で5分の場所におぬまお父さんの墓地がある。今日は大人達だけでお墓の掃除に出かけた。
車から下りると、石に掘られた『小沼家』の文字が目にはいる。相変わらず風景がとてもいい。田んぼの上を渡る涼しい風が吹いてくる。生前のお父さんはこの場所をとても気に入っていたということだ。
バケツをぶら下げて、旧式の手押しポンプの井戸で水を汲みに行く。きこきことハンドルを力一杯上下させると、清らかな水が突然ダバッとあふれた。
貴重な水を節約するようにして、墓石を磨き始める。炎天下の為に枯れてしまった供花の茎には沢山のカタツムリがついている。カタツムリは普段好きな生物だが、こんな風にびっしりだと無気味だ。掃除しても幾つでも出てくる。黄緑の殻で見たことのない種類だ。カタツムリを掃除しながら、透明な水にスポンジをひたして、注意して墓石を磨く。
死後の事実。直に受ける痛ましさ。人の手が入らなかったらたちまちの内に朽ちていく。私もここに入るのだから自分の運命でもある。生きている者の空想にすぎないのだろうか。弔うなんていうことが。
だけど、空想であってもいい筈だ。カタツムリが這うに任せるという空想を選ぶ訳にはいかない。生きている人の身体にするように丁寧に磨く。濁った水を捨ては汲み、捨ては汲みして、澄んだ水を繰り返し使う。手のひらを使って、少しずつかけていく。最後には何もかもが清潔になって、墓はすっかり見違えた。みなで仕上がりを眺めた。車に乗り込む前に振りかえると、濡れた『小沼家』の字が風景とよく調和していた。
夕方、子供達と一緒に回転寿司に行く。家中の雨戸を閉めて、念入りに用心して家を出た。一時間後、満腹になって帰宅すると、玄関の足元に黒い影が走った。影はさっと素早く駆け出して、警報システムの前で振り返った。猫である。泥棒の正体はおまえなのか、と心で問うと、猫は黙って瞳を光らせている。
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