袋はどこへ

花粉が飛び始まった気がする。春の陽光は花粉の黄色と同じになってしまった。この大好きな季節を毎年嘆き節で迎えるのは残念でならない。
木曜日、いつものバレエ教室で稽古した後、痒い目を洗う薬剤や、石けんなどをドラックストアで買った。嘆き節だ、と思いながら会計を済ませ、電車に乗り、デパートや郵便局にも寄って家路についた。部屋で荷物を下ろすと、ドラックストアの袋がない。どこで失くしたのか、ビデオを巻き戻すように自分の行動を思い返してみるが、花粉のような陽光しか記憶にない。
郵便局に戻って、買い物袋の忘れ物がなかったか聞きに行くと、局員さんは、ありますが、一昨日の忘れ物です、と言う。見せてもらった袋はユンケルなどが入っていて、そっちの方がいいなと思うが、とにかく違ったので、家に戻ってまた放心する。レシートを見ながらデパートに電話すると、大変親切な売り子さんが出て、念のためくまなく店内を見ましたがありません、と言う。丁寧な対応にお礼を言って電話を切り、魔法のように消えた袋をぼんやりと考えた。不思議なこともあるものだ。まさかと思い、ドラックストアに電話してみると、あります、レジの者が追いかけたのですが、間に合いませんでした、と言う。なんと最初から受け取っていなかった。受話器の向こうで親切な店員さんが笑いながら、その袋あります、目の前に、と言った。