隣の空き部屋に新しい方が越してきた。とても穏やかな年配の方だった。東京では、優しいご挨拶を頂くのがどれだけ安心か、たとえようもない。互いを知らなければ僅かな物音でも神経を尖らせ、余計な推測で暮らし合わなくてはならない。お隣さんは入居の際、すぐに大きな傘立てを入口に置かれたので、私は中に入っていた数本の傘の柄で、人柄や家族構成をなんとなく推理する気持になっていた。結局お話ししてみると、傘のイメージはまるで一つも当たっていなかった。私たちの部屋の入口前に、表札はかけていないのだけど、相手にはどう映っていたのか。無愛想はいいことじゃないな、と思ったのだった。
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