なに書こう。シャボン玉が浮かんだ。今日の日記は随分と古い話。
小学校2年生の時、同じクラスの男の子となにかにつけ競い合っていた。学校の図書館で借りた本をひらいて、おもしろ怖い不思議な本を二人で読んだ。なにか憎いような、尊敬するような、形容しがたい印象を残した相手だった。
当時の小学校の図書室はうさんくさい情報源の本でもこだわりなく置いてあったようだ。ある日、私達は一冊の本に夢中になった。それは世界の仰天記録大辞典とかいう、凄い情報が満載の本だった。ある1ページを指さして、男の子は言った。
「お前。あしたまでに、これぜんぶおぼえられる?」
「○○くん、できる?」
「オレ、できるぜ」
その子に感心されたいが為に、私は自分も出来ると言い張った。
33歳になって未だに覚えているその時の記憶が、「世界一長い名字」の記事だ。
アドルフ・ブレイン・チャールズ・ダビット・アール・フレデリック・ジェラルド・ヒューバード・ジョン・ケンネス・ロンド・マーチン・ネロ・オリバー・ポール・クインシー・ランドルフ・シャーマン・トーマス・アンカス・ビクター・ウイリアム・クセルクシス・ヤンシ・ーゼウス。
私は帰り道で唱え唱え、ご飯の前に唱え、お風呂でも唱え、とうとう寝る前までに覚えてしまった。そして翌日。二人は同時に唱え終わった。勝負は引き分けだった。
もう忘れたかな、と唱えているとまだ覚えている。何の語呂合わせにもなっていないが、不思議と記憶は消えない。意味がないからこそ残ったのかも知れない。高校受験の時、緊張のピークで脂汗をかいていたら、ひょいと出てきた。アドルフ・ブレイン・チャールズ……
33歳になっても未だに覚えているのだから、おそらく一生ものの記憶だろう。
私はこの呪文を今まで何度唱えたか数え切れない。ところがある時ふと気がついて、心の底から愕然とした。この名前は頭文字がアルファベット順になっているではないか。アドルフ(A)、ブレイン(B)、チャールズ(C)……
なんという哀しさだろう。おそらく記事の担当者が適当に考え出したに違いない。私はそれを後生大事に抱えて暮らしてきたのである。
私はこれからも、この無意味な語呂と生涯をともにするのだろう。
ちなみに、実際の世界で一番長い名字の方は、ユーゴスラビアの方らしく、「Papandovalorokomdururonikolakopulovski(パパンドバロロコムドウルロニコラコプロプスキイ)」さんだそうだ。こちらの方はまるで覚える自信がない。
シャボン玉が割れた。あの日の男の子、さようなら。
小学校2年生の時、同じクラスの男の子となにかにつけ競い合っていた。学校の図書館で借りた本をひらいて、おもしろ怖い不思議な本を二人で読んだ。なにか憎いような、尊敬するような、形容しがたい印象を残した相手だった。
当時の小学校の図書室はうさんくさい情報源の本でもこだわりなく置いてあったようだ。ある日、私達は一冊の本に夢中になった。それは世界の仰天記録大辞典とかいう、凄い情報が満載の本だった。ある1ページを指さして、男の子は言った。
「お前。あしたまでに、これぜんぶおぼえられる?」
「○○くん、できる?」
「オレ、できるぜ」
その子に感心されたいが為に、私は自分も出来ると言い張った。
33歳になって未だに覚えているその時の記憶が、「世界一長い名字」の記事だ。
アドルフ・ブレイン・チャールズ・ダビット・アール・フレデリック・ジェラルド・ヒューバード・ジョン・ケンネス・ロンド・マーチン・ネロ・オリバー・ポール・クインシー・ランドルフ・シャーマン・トーマス・アンカス・ビクター・ウイリアム・クセルクシス・ヤンシ・ーゼウス。
私は帰り道で唱え唱え、ご飯の前に唱え、お風呂でも唱え、とうとう寝る前までに覚えてしまった。そして翌日。二人は同時に唱え終わった。勝負は引き分けだった。
もう忘れたかな、と唱えているとまだ覚えている。何の語呂合わせにもなっていないが、不思議と記憶は消えない。意味がないからこそ残ったのかも知れない。高校受験の時、緊張のピークで脂汗をかいていたら、ひょいと出てきた。アドルフ・ブレイン・チャールズ……
33歳になっても未だに覚えているのだから、おそらく一生ものの記憶だろう。
私はこの呪文を今まで何度唱えたか数え切れない。ところがある時ふと気がついて、心の底から愕然とした。この名前は頭文字がアルファベット順になっているではないか。アドルフ(A)、ブレイン(B)、チャールズ(C)……
なんという哀しさだろう。おそらく記事の担当者が適当に考え出したに違いない。私はそれを後生大事に抱えて暮らしてきたのである。
私はこれからも、この無意味な語呂と生涯をともにするのだろう。
ちなみに、実際の世界で一番長い名字の方は、ユーゴスラビアの方らしく、「Papandovalorokomdururonikolakopulovski(パパンドバロロコムドウルロニコラコプロプスキイ)」さんだそうだ。こちらの方はまるで覚える自信がない。
シャボン玉が割れた。あの日の男の子、さようなら。
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