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人間になればよかった...
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意志のない只の字を、書けたらきっと楽しい。跡は残ってしまうけれど、生きていて何かの痕跡が残るのは、仕方ないことだ。それも近いうちにみんな消えて、この場所だけが残るのだった。子供の時からここで遊んでいた。紙くずだったり、誰かの本の上だったりした。国語を離れて、自分というものはなかった。
白紙と、国語と、字を見ることが秘密と同意義だった。今思うと、不思議な気さえする。
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土曜日、茨城。運動会やインフル騒動で3週間も来なかったから、義母は本当に嬉しそうで、栗ご飯とけんちん汁をたっぷり用意して待っていてくれた。留守にしている内に、私の心境には変化が起きて、というか、楽ちん虫が頭をもたげて、月に一度位の訪問にさせてもらおうかなあ、と思い始めた。それは端がない輪のような自問自答で、迷いながら七年続けてきたことでもあるし、よくよく考えて決めようと思う。留守中どうでしたと聞くと、なんにも大きな変化はないよ、と義母は笑って言った。自然だけが移行して、枯れ色になったさつまいもの葉や、赤く色づいた柿など、実りの秋といった庭の景色になっていた。久しぶりに草達と再会して、相談したいような気持で草刈りをした。
お母さん友達のYちゃんは、自分に時折声をかけてくれる。今日はフレンチのお店で一緒にランチをした。生牡蛎にレモンを絞って食べた。美味しいものを食べると代償を払うように、人と深く付き合うことは、最後には悲しい結末を呼ぶだけのような気がしていた。Yちゃんも牡蛎を食べた。この人は簡単に私の垣根を越えてきた。
私には、私以外の人が必要だ。私は文章がなくても暮せるようになった。人に好かれなくてもいいと思えるようになった。
線路の石の間に雑草が生えている。手前は吸い殻、空き缶、ゴミの山。
向かいのホームには人だかり。いつも、何があったかは、知らないままだ。
何故だか、大きな音を鳴らしながら、やってくる電車がある。
運転席が見え、帽子を被った人がいる。
こんな所に飛び降りたら、ひとたまりもないな。
あの斜め前で、白線ぎりぎりの場所で薄く笑っている、若い人は。
暮らしにまた新しく決まり事を作った。夕飯が済んでから1時間、娘と毎晩勉強すること。小学四年生の算数も、結構難しい。
娘の新しい担任のH先生は、多少強引でも上から押さえつける形でクラス運営を開始したようだ。先生自身のお話や冗談なども一切なく、今はとにかく最初が肝心ということで厳しく当たっている様子で、長期的なスパンで見れば、とても不安なスタートに自分には思える。だけど、どうして先生を責められるだろう。すでに一人気に入らない教師を追い出すことに成功している子どもたちだ。先生だって命がけの筈だ。私語を止めない子ども達がまた出始まったと、娘から現状を聞いた。学級崩壊は大半の子どもにとって楽で気ままなパラダイスなのだから、そう簡単に行動を改める気にはなれないだろう。憎むべきは辞めた先生のご病気である、先生に罪はない、子どもたちにも罪はない、保護者にも罪はない、と円く収めたところで、何の教訓が学べるだろう。
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