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人間になればよかった...
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悲しいことは、思いだし、思いだし、その都度、暮らせばいいと思う。
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人生には三回の船が来る、と言ったのは死んだ義父だった。それは助け船が来るという意味だったのだと思う。義父は二回はすでに来た、あと一回分が俺に残っているんだと言った。唄か何かだったのか、世間で知られた諺だったのかは判らないけれど、病院で、自宅で、およそ半年続いた癌の闘病生活の内で、義父は何度となく「あと一回」の言葉を口にした。
私は義父が待っていた船を忘れる事が出来ないでいる。義父は、希望を曖昧には捉えていなかった。はっきり、意志を持っていた。その話を私に言う時は、悲壮感や冗談とはかけ離れた確信を持って、よく口端に笑みを浮かべ、やわらかな声で言っていた。
99
自分の名札をもらった。制服はまだ借り物だ。
雨の日はお客さんが傘を買いに来る。104円の傘は安いと私も思う。通り雨は店にも変化をもたらす。年配のお客さんは来なくなる。何故だかカップラーメンが沢山売れる。
レジ打ちは慣れて楽になってきた。きちんと出来れば、お客さんもこちらを見たりはしない。なんとなく気分がよくなる、という接客が一番いいと思う。個人的な好みかも知れない。
今日は納品書の整理や、床のモップかけを習う。おにぎりやパンに20円引きシールを貼る手順も教えてもらった。廃棄の山をはじめてまじまじと見た。プリンもきゅうりも捨てられていた。ちゃんと見ておこう。
気持良くないお客さんには一度だけ遭遇した。二十代の学生2人組。言葉でからかわれた。丁寧に応対して気分よくお帰りいただいた。
上野駅の人混み、結構みんな背中丸まっている。パン屋さんで明日の朝に食べる食パンを買う。娘は甘いパンやチキンに目を奪われて、買ってくれとせがむ。レジの女性の早口と機械的な笑顔に、制服のネームの名字に、なんとなく心惹かれる。どうやっても解りはしないのだ、ここでこの人達を知って、明日のパンを食べる意味も。見続けなければならないのだ、お仕舞いまで判らないのがはっきりしていても。
通行している人の顔を見ることは殆どない。首から上を見ることはしない。娘は次の電車が来たと、パンの袋を振り回して走っていく。階段の下で犬顔の電車が待っている。周りの何人かの人の足も、走りだした。
土曜日、茨城。車を運転して義父のお墓参りに出かけた。義母と娘は後部座席で窓をあけて、涼しいねー、と言っている。義父の墓は全体を見渡す少し高い丘になっていて、空も緑もとてもよく見える場所にある。亡くなって十年の区切りだ。記憶のベットの白いシーツと雲の色がよく似ていた。死んだ人の心は、生きている人の心をお見通しなのだろうか。子供の時から、お墓の前に立つ度に考える。薄緑の墓石を、娘が嬉々としてタオルで拭いている。じいちゃんよろんでるわ、と義母が言う。お父さん変な嫁ですいません。そんな風に思ってみる。お父さんすいません。ごめんなさい。いつもごめんなさい。
手を合わせて、お父さんに近況の報告をした。
苦痛だけが本当の場所だ。本当の場所はいつも苦痛の最中に現れる。
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