電話帳の下に埋もれた古い電卓を見つけて、これは99ショップの練習に丁度いいなと思い、税込み104円の個数を繰り返し叩く。昨晩明け方に到着した3人の子供達は、娘と合流して家の廊下を走り回っている。104円かける4は、416円か。と子供の頭数を金額に換算して、今年は随分おだやかな夏だと思う。以前のように組み合って喧嘩することはなくなったし、話すことも筋が通っている。たった一年で起きた変化に驚かされながら、育つなあ子供、と思う。私は電卓とデジタル数字をにらみながら、104の倍数を暗算しようと、もう10分も続けているのに覚えられない事に気がつく。昔は天才児と呼ばれたものだが、と呼ばれていないのに記憶をねつ造して、窓外を眺める。炎天下の畑に416円達が走って行く。赤いトマトと黄色いトマトが鈴なりに実を付けている。完熟しているのを、手でちぎっては口に入れている。
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小沼妹さん一家が今年も茨城邱に帰省するそうだ。今日車で発って、明日到着との報せを受けて、この家では布団に新品のカバーをかけたり、人数分の茶碗を用意したりして、旅館のように忙しく態勢を整えた。義母は嬉しくて待ちかねている様子だが、持病の膝が痛いらしく、少し足をひきずっている。私と娘は数日後に北海道に旅立つ。自分がいなくなると義母が困ることは判り切っているのだけど、でも私も実家の両親に二年ぶりに娘を会わせたくて、今年は我が侭を通してしまった。親は会わない内に歳をとる、私も会える内にと決めたけれど、本当にこれで良かったのだろうか。考えてみれば、結婚を機に他人になるなんて、母と娘はつまらないことだ。妹さんは今頃、飛ぶような気持で車を運転していることだろう。
義母は交通渋滞の心配ばかりしている。九才の娘も興奮して眠れないらしい。義母の部屋に行くとまだ灯がついていた。きっと二人で明日の相談などしているのだろう。
義母は交通渋滞の心配ばかりしている。九才の娘も興奮して眠れないらしい。義母の部屋に行くとまだ灯がついていた。きっと二人で明日の相談などしているのだろう。
ここ茨城では話し相手がいないので、外郎売の練習や、算数の暗算、バレエのストレッチをして、頭がぼんやりとしてくるのを防ぐ。一日中同じ畳の部屋にいる。義母は70歳を過ぎて仕事をしているから、日中はいない。とにかく出来る事をして、外郎売を三回大声で唱える。近所迷惑ということがないから、幾らでも練習できるのが良い所だ。
今は夜で、さらに静まった窓外を眺めているのだが、頭が無音なのか、外が無音なのか、解らない程だ。しかし私はまだ本当の無音を聴いた事がない、心音がまざっている。
今日を終るために、無音の時間を堪え忍んでいる。希望も絶望も自分に興奮しているという意味で変りはないのかも知れない。私と他人をつなぐ無音の場所が、今夜は字の源泉のように思える。
今は夜で、さらに静まった窓外を眺めているのだが、頭が無音なのか、外が無音なのか、解らない程だ。しかし私はまだ本当の無音を聴いた事がない、心音がまざっている。
今日を終るために、無音の時間を堪え忍んでいる。希望も絶望も自分に興奮しているという意味で変りはないのかも知れない。私と他人をつなぐ無音の場所が、今夜は字の源泉のように思える。
飲み会後のテーブルもそのままに、朝に自転車をこいでバイト先の99E店へ向かう。寝不足の頭に体内のアルコールが回り、どこを漕いでいるのか判らなくなった。
店内は地元のお客さんがまばらで、夏休みの影響が出始まっていた。制服に着替えてレジを打っていると、自分でもお酒の匂いをさせて、いらっしゃいませはないなと思う。店長が咳き込んでいる。昨日ずーっとレジやってたんすよ、いらっしゃいませーこんにちはー言い過ぎて、声枯れちゃいました。珍しく疲労を滲ませているので、店長大丈夫ですか、と思わず言うと、広辞苑で「タフ」って検索したら、俺の名前が出ますから、と訳の判らないギャグを言った。もう一人の先輩Sさんは頭痛がとれず、さっきバファリン飲んだの、と言う。今日はお店3人だけで頑張っていきましょう。と店長は自分に言い聞かせるように言うと、大量のカゴを抱えて運んでいった。人は仕事のために無茶をする。なんだか皆でコメディを演じているみたいだ。私も胃袋をさすったりしながら、4時間半、一度も休憩なしでずっとレジに立っていた。
暑い太陽が雲にかくれ、夕方から雨になってきた。家の掃除をすべて終らせてから、夜、茨城へ向かった。
店内は地元のお客さんがまばらで、夏休みの影響が出始まっていた。制服に着替えてレジを打っていると、自分でもお酒の匂いをさせて、いらっしゃいませはないなと思う。店長が咳き込んでいる。昨日ずーっとレジやってたんすよ、いらっしゃいませーこんにちはー言い過ぎて、声枯れちゃいました。珍しく疲労を滲ませているので、店長大丈夫ですか、と思わず言うと、広辞苑で「タフ」って検索したら、俺の名前が出ますから、と訳の判らないギャグを言った。もう一人の先輩Sさんは頭痛がとれず、さっきバファリン飲んだの、と言う。今日はお店3人だけで頑張っていきましょう。と店長は自分に言い聞かせるように言うと、大量のカゴを抱えて運んでいった。人は仕事のために無茶をする。なんだか皆でコメディを演じているみたいだ。私も胃袋をさすったりしながら、4時間半、一度も休憩なしでずっとレジに立っていた。
暑い太陽が雲にかくれ、夕方から雨になってきた。家の掃除をすべて終らせてから、夜、茨城へ向かった。