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人間になればよかった...
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緑の代わり映えのしない風景が、延々と飽きるほど続く。娘は声を出さずに泣いている。一年経ったらまた会えるよと言ったら、なにも言わずにこくんと頷いた。
父母が空港まで送ってくれる。私と娘は後部座席で草をはむ牛や、ロールケーキのような巨大な牧草の玉を眺める。
根室中標津空港は小さな空港で、東京便は一往復しかない。出発時間まで食堂で時間をつぶす。母は北海道名物のいも団子を頼み、父は運転で酒が飲めないので仕方なくオレンジジュースを頼んでいる。娘は牛乳を飲んでみたいとせがむ。さっき通りかかった時に牛を見たせいだ。
私が静かにコーヒーを飲んでいると、父はいつもするように、居心地の悪そうな、困ったような顔でこっちを見ないようにしながらジュースを飲んでいる。私と父は、長年そういう関係だ。
オレはもしあんたたちに万一の事が起きても、絶対に東京なんか行かないから、覚えといてけれや、と父が誰に言うともなしに言う。身体が丈夫なら私は東京旅行だってしたいよ、と乗り気な母に対し、父は絶対に行かねえと重ねて言う。本州は暑くて厭だし、飛行機は気持ち悪いし、一生オレは行くことはない。と何故か私を直視して断言する。以前、父がその主義を曲げて本州に来てくれたのは、小沼のお父さんの一周忌の時だった。その時は、父は大真面目に膝を閉じて、正座して線香をあげていたのである。
空港のチェックインの時間まで、4人で窓外のだだっ広い草原を見ていた。
ばかでかい音を出しながら飛行機は地上をひた走り、これでスピードが足りるのかなと思った瞬間、斜め上にふんわり飛んだ。北海道があっという間に小さくなる。
娘は窓外を見ずポケモンの映画など観ている。私は肩越しに窓の外を見るが、翼ばかりだ。雲の切れ間からジオラマのような緑の大地が少しだけ見える。雲が天国のように光っている。
長い旅が終わって、東京へ。
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小雨がちらつく中、家族で集まってお祭りを見に行く。灯りは夢のように照って、娘たちの浴衣の背中の帯に金魚が泳いでいるように見える。ひらひらしている。笛と太鼓の音色は体調が悪いせいか、耳が驚かされる。出店は全国から集まってくるらしい本職のテキ屋さんばかりで、みんな現実の辛酸を舐め尽くしたような顔をしている。子供達は盛んにくじを引くが、当たるのは下等のくじばかりだ。店を見ていたら、昔の幼なじみがフランクフルトを売っていた。二言三言話して、お互いなつかしさで変に照れてしまい、身動きが取れなくなり、顔もよく見ずに早々に別れた。
七人の子供達はスマートボールに夢中になっている。私も好きで必ずやった。1ゲーム五十円。小雨が服をしめらせていく。空の冷たさ。私達が繰り返し生きてきた道の、長ようで瞬くような時間。
家に帰り、姉夫婦と弟夫婦と庭でテントなどはってバーベキューをして、お別れの夜を過ごす。
疲労がピーク。私も娘も疲れたまま目が覚めた。父は肝臓の痛みを訴え、母は足腰に力が入らない。法事は無事終わったが、どうだったんだろう、賑やかに供養した家族の愛情表現を下の弟は喜んでくれたかのかどうか。
人は疲れていると口がきけない。窓の外を黙って見ていると、祭りのお囃子が聞こえてくる。今日から3日間、町の主要な道路を封鎖して、金比羅神社のお祭りがある。海の神様だそうだ。今日のお魚はマスの煮付け、サンマの刺身、イカの刺身。もう伸びたヒゲを剃る気力もない。どうしたあざらし。もっと魚を食えよ。魚ちゃん、分かっいるよ。自分を育んでくれたこの家は、自分のような綺麗事を愛さない。長所でもあり短所でもある我が家のルールは、帰省した私を二つに裂いてしまう。私はこの故郷もまた、生涯の宿題とするだろう。
明後日は東京に戻るので、荷物の整理を始めた。
今は夜11時半で、宴会がやっと終わったところだ。朝は早く起きて、黒い服を着た。父は仏様に備える団子を作っている。下の弟は13歳で死んだ。交通事故で、現場は自宅の側で友達の前で事故にあったという話だ。私は当時神奈川県で学生をしていたが、気の動転した家族は他の親戚に漏らさず連絡したのに、私の存在だけはすっかり忘れて、知らせが届いた時は、すべては終わっていて、病院の霊安室から自宅へ戻る所だった。
北海道にも地域で作法の差があると思うが、ここ道東地区では、団子をピラミッドの形に積んで、形を整えたままふかす。団扇であおぐと、つやつやに光って美味しそうな照りが出る。お坊さんが家に来てお経をあげて下さる。お帰りになった後、子供達は鐘をちんと鳴らして、お団子をせがむ。ピラミッドはあっという間に分解していく。私もひとつ食べたら、味という程の味はないけれど、なんともおいしかった。
夜は、20名ほど集まって、大宴会をする。弟の友達だった子が、自分の妻と赤ちゃんを連れてくる。私は、大きくなった弟などまるで想像出来ないのだった。
今日の日記はここで時間切れ。
この自然児のような故郷から離れる事は出来ても、憎む事は出来ない。そうするしか道はなかったと思うのに、見つかるのは愛の証拠ばかりだ。
父がどこかに電話していたと思ったら、巨大なダンボールがいきなり届く。箱を開けるとぎっしり花火だ。問屋さんから直接注文したと言って、父は得意げに中身を見ている。昔から極端なことが大好きなのだ。こんな量を個人で取り寄せる人は普通いないと思う。身内で集まって花火大会をすることになる。姉夫婦と弟夫婦、子供を合わせて総勢10人、それに父母と娘と私で14人。この人数でさえ、とても使い切れる量ではない。全員庭に出る。子供達はみな手持ち花火に惜しげもなく火をつける。男達が次から次ぎへと花火を打ち上げて、拍手喝采だ。火はあらぬ方向へと飛んでいく。私はこの印象を、とうとう言葉にする事が出来ない。この故郷が、私の根を構成していると判るだけなのだ。
煙でもうもうとした庭から帰ってくると、家には花火があと半分も残っていた。
明日は以前死んだ下の弟の法事がある。黒い服の用意をして、布団に入り、少しだけ本の続きを読む。
今日も夏らしい晴天。市の図書館に行ってきた。祖母はアイヌ人と和人の混血だったらしく、ふと気になって民族資料のコーナーを覗いてみる。祖母は写真や手紙等、アイヌに関係した物品は自分の手で全部燃やしてしまい、誰にも口外せずに死んでしまった。心中どんな思いだったか、考えてみても全く判らない。クォーターである父ですら、その事実を知ったのは40歳過ぎてからだ。
父と母に言わせると、あんな気持悪い奴らは外にいない、体中毛むくじゃらだよ、という話だ。私はロマンチックな気分すら抱いていたのだが、現存する資料を開いて考えが変わった。女性は口裂け女のような入れ墨を顔に施し、男性達は背が小さく、どぎつい文様の鉢巻を巻いて立っている。なんという文化だろう。大好きなお婆ちゃんの顔立ちに似た人たち。興味を持ったので少しずつ出来る範囲で調べてみようかと思う。『アイヌ神謡集』(知里幸恵・著訳)を選んで借りた。
夜、父母と娘とでジンギスカンを囲む。茹でたジャガイモも食べる。お魚はマスだ。食後に本を開き、おっかなびっくり読み進める。
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