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人間になればよかった...
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去年友達になったYさんと待ち合わせて、I駅のサンシャインシティで買物などをした。なにを見ても信じられない、曖昧さをのけたい、という気持がやわらいで、今日友達に会えて良かったなと思う。普段行かないような奇麗な店で、評判になっているランチメニューを注文し、Yさんと来て良かったねと何度も話した。身体に風が入ってくる。Yさんは時折自然に笑い、自然にパンをちぎっていた。
何かを良くしようと願う事は本当にむつかしいことだ。私はとうとう何も良くすることが出来ないのかも知れない。私は後ろ向きに身をたわませることで、推進力を得る性質らしい。まだしぱらく後ろに進む。本当によくしたいのだから、判らない気持も我慢するしかない。
夜、娘と茨城へ出発。天気に恵まれたゴールデンウィークになりそうだとの電車の電工掲示板の予報。
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意識しなくても、物語の中に暮らしている。自然に生えた草花を見る時もそうだし、親しい人の知らなかった横顔を見るときもそうだ。大きな交差点の雑踏の物語は、内奥の部分を傷つける。大勢の見知らぬ他人が永久に交わることなしにそれぞれの暮らしを営んでいるのは、当然のことなのに、私はそのことすら忘れて、自分の胸に関連性を作ってしまう。その証拠を探しては安心している。自分も無数の点のひとつとして、関連した点を打ってしまう。
身体から物語を追い出して、一切の夢を見ないで、コップや、机や、窓や騒音を直に見て聞いて、暮らす練習をした方が良いような気がしている。
毎日、それとなく運動する習慣がついた。気が付くと身体のストレッチをやっている。字生活から急速に遠ざかっていく。以前は空き時間があると読書にあてていたが、今はバレエ作品のビデオを観る。身体の調和が膨らんで、自分が反転してきたのを感じる。字から少し離れてみようかと思う。毎日更新の弊害が徐々に出てきた。
H町駅の友人に会いに行く。奥歯かむ。頻繁な呼び出しで、ざりざりと擦過傷を作りながら、それでも元気になってくれる方がいい。友人の態度を嘆くのは筋違いだ。自分の方で境界線を守っていれば、お互いに気が楽だろう。

娘の家庭訪問日。ぶらぶら手ぶら、という感じで担任の先生がいらした。こんな場面では緊張してお茶を出す手が震える。先生の方は自然体か、あるいは信念をもって自然体を装っていた。
先生と話したのは10分ほど。短い時間から得た情報は、先生がクラスをまとめることに自信を持っていること、保護者にはあまり手の内を明かさない、ということだ。保護者の一人として無理もないなと思う。先生はお茶もお菓子も召し上がらなかった。40人近くの家庭と公平に付き合うというのは、随分気の張る作業に違いない。先生って大変だ…と一切手をつけられなかった白いまんじゅうを眺めた。
娘が部屋から飛び出してきて、先生とどんなお話したの?と聞いてきた。色々言ってた、先生におまえを任せたよ、と言って、まんじゅうを皿から取って食べた。
私の茨城は、仏様の手のひらの上。茶色い、広い、違和感のある自然。幾らでも生えてくる筍の大地。買ってきた筍を六個、大鍋で煮る。煮られている自分の身体。
生きているのは、辛いことだ。死んで煮られている運命も、辛いことだ。両手をコンロの上に置いて、優しげな歌を聴いて、身を慰める。泡のたつ音。泡のはじける、優しげな音。
故郷は遠し。最初から存在しなかったのかも知れない。乳牛も馬も見かけない丘の上、子ども三人、遊んでいる。
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