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人間になればよかった...
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風と雨で、桜の花が足もとで水にふやけている。H町駅の親しい友人がどうしても今日会いたいという。用件を聞いてもはっきりと答えない。
幼児の頃から慢性的に、親にしっかりと抱きとめてもらった経験を持たなかった人は、大人になった後も自分が愛に値する人間なのか信じきることが出来ない。その疑心暗鬼は一生涯続く。初めは彼女がどうして私を呼ぶ日が大抵悪天候なのかを不思議に思っていた。気圧やら重い気分やらが影響しているのではないかと思っていた。もしかしたら、悪天候の中彼女の為にわざわざ会いにくる人間がいること、そのことで、彼女は第三者の愛に値する人間であると信じられ、安心することが出来るからではないだろうか。
善意は生ものと同じで腐りやすい。電車の席を譲ってあげた後、立ち去る事が出来ないでつり革に掴まっている人は、善意が腐る時間に耐えているかのようだ。腐って匂いを放つから人に嫌われる。あてにならない善意を動力にせず、かといって、シニカルにもならず、長期戦でやれたらと思う。
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長所と短所は背中合せで同じものなのだから、私は私自身を包丁で切り取ったということになる。それは激しい痛みを伴いながら、かろうじて成功したかに思えた。私は自分の目触りな部分が、自分の視界から消え失せた事を喜んだ。唯一の美点すらも失った事を知らずに。
悪化していく花粉症に驚きながら東京の空気を吸う。マスクをしてこなかったことを後悔した。娘の手をひいて自宅への道を久し振りに歩く。九日いなかっただけで少しずつ変わっている。人の服装、店の看板。気がかりだった近所の桜並木を見上げると、残念、どの樹も花こそまだついているが、地の枝が透けて無骨な姿に戻っていた。東京の桜は散り際が異様に綺麗なので、それを今年も見られなかった事で、また一年間待つのか、と非常に残念な思いがする。
相棒は家にいて、久し振り、と挨拶を交わす。ヒゲだけ伸びていた。留守の間に溜まった掃除と洗濯を片っ端からやっていると、茨城とはまた違う暮らしの実感が湧いてきた。都市の暮らしは気ぜわしい。忙しいけれど自分の家があるというのはそれだけで幸福な事ではないだろうか。忙しいというのは、きっと悪いことではないはずだ。明日は娘の新学期。朝ごはん、昼家事、夜仕事。日記作業が夜明けになり、船をこぎながらこれをつける。
茨城、八日目。体調が回復した。おぬま弟さんとお母さん、娘、私の四人でH市にある動物園に出かける。山の上にある風変わりな動物園なのだが、春休み後半のせいか、多くの家族連れで賑わっている。この公園は桜が名所で、どの樹もほぼ満開の花をつけていた。ゾウやカバの背景が桜の風景、というのは、とてもいいものだなと思う。
動物を見て歩くと、みんな寝ている。起きて元気に動いているのは例外で、ライオンも、トラも、シマウマも、だらしないボーズで寝ている。今、バーチャル映像の技術が盛んに開発されているが、もし自然にかえすことが不可能なら、彼らに友達を作ってはどうだろうかと思う。人の罪業を深くするかも知れないが、彼らが幻と見破れない程の高度な映像なら……そこまで考えて、顔をあげると、キリンだけがいやに悲しげな目で手前の策からこちらを見ている。長いまつ毛だ。私は人の世で人のルールで暮しているのだから、多くの人が自然に感嘆し、畏怖し、世界の有限性、人の在り方を考える機会としての、動物園の存在意義を否定することは出来ない。
明日、娘と九日ぶりに東京に戻る予定。
七日目。夜中に震度四の地震が起きる。義母、娘、私、バラバラの場所で好き勝手に過ごしていたが、揺れが来るなり、一気に結束が高まる。
今夜は体調がいつもと違い、身体の芯の部分が鈍く痛む。重たく感じるので、休むことにした。
茨城、六日目。午前中はゴミ処理センターへ行き、午後は外の枯葉掃除をする。タンポポの葉や、枯葉の下で這う蟻の大群などを、仕事の手で忙しく払いのける。
同じ指を、夜キーボードの字を打つために使う。掃除の際に竹の熊手で傷つけた中指に、赤いかさぶたがついている。字を書くことは、1.気付くこと.2.忘れないこと.3.言い表すこと.4.その文と真逆の感情に気付き直すこと、の四つの過程を気力が続く限り繰り返すことで、おまけとして現れる副産物なのだと気が付く。現在ここにいる自分の流れと、もうとっくに過ぎ去ってしまった過去が混ぜ合わさって、やっと文が出来る。あの時に見た蟻の黒さを思い起して、現在の指を無心に動かす、そういった二つの別々の作業をやっていたのだ。だからこれは現在でもないし、過去でもない。そして私は、繰り返しの途中から過去そのものが濁っていく事実に、文を書くことによって初めて気がつく。
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