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人間になればよかった...
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おぬまさんが何か言いたそうに見ている。珍しく二人で出かけた。電車を乗り継いで、国立新美術館に展示中のフェルメールを観に行く。名画『牛乳を注ぐ女』が日本初公開ということで、年配のお客さんが沢山来ていた。ロビーもフロアも混雑して、さすがの人気。
展示会は17世紀のオランダ風俗画展と題されて、庶民的な生活場面を描いた画が多かった。縫い物したり、酒場で酔っぱらったりしている画など。お客さんの流れをゆっくりと進むと、ビデオ映像が現れた。予告編のように何度も構図の解説文が出てくる。フェルメール様ご登場、という感じ。他の画がちょっと可哀想な気もするんだけど。
藍色の壁の中央で、画が、沢山の人の頭に囲まれていた。色の美しさは遠くからでも判った。近付いていくと、画は静かに光を放っている。足を止めてはいけないので、ゆっくりゆっくり歩く。写真とはまるで違う。驚く配色だ。見られてよかったと心でつぶやく。完璧で、それでいて人を威圧するところがない。なんて静かで当たり前の世界なんだろう。本当の空気なんだ。
生涯に30点余りしか作品を残さなかった寡作の画家だから、どの画も気が遠くなる程時間をかけて描かれたものだろう。ここまで美しいとは思っていなかった。この画を見られただけでも、来てよかったと心から思った。
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