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人間になればよかった...
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月曜、99のバイト。台風が首都圏にも雨を降らせている。レインコートを着た後、安価な透明のビニール製のズボンを履いて、自転車をこぎ出した。腰から下に当たる雨も跳ね返して、今度は濡れずに職場に着いた。
レジ横には新しく焼き芋コーナーが出来ていた。店員が焼きながら販売するらしく、1本104円。この値段で利益が出るのかな、と他人事ながら心配になる。空いた時間に初めて芋を焼いてみる事にした。タイマーを40分にセットして、レジ業務をしながら様子を見ていると、次第に香ばしい香りが立ち上り、急に焦げ臭くなった。中を開けると表面が炭になっていた。一本だけ焼く場合は半分の20分でいいらしい。店長に謝って、弁償します、と言うと、店長の目がスーッと籠の鳥を見る目になって、弁償はいいですよ、オレの説明が足りなかったんだし、と言った。店長は時々、こういう鳥を観察するような、不思議な目つきをする時がある。バイトをした初日の帰りも、こういう目で観察された時があった。
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東京に戻って夜、選挙の投票に行った。大雨で増水した川を眺めながら、流れと平行して並んで歩いた。雨は幾らでも降ってくる。傘も肩も靴も、じっとりと濡れていって、なにもかも、これは夢じゃないんだな、と思った。黒い水が揺れているのが、歩く方向と一緒になって、並んで行く友人のように思える。川を横切る橋の前までやってきて、いざ下を見ると、足がすくむほど渦が巻いていた。
土曜日の茨城。うだるような暑さにも、どこか冷風が含まれているようで、秋の境目だと思いながら2時間ほど草刈りをする。自分の暮らしのやること為すことが、自嘲となり、草刈り機の震動と共に跳ね返ってくる。全部が全部、立派である必要はないのではないか。試された本当の瞬間、ある関係において……ある関係においてのみ、立派で正しくあればいいのではないか。もしそれが、本当の時間であったなら、どれだけ長い時間が経ったとしても、変化せず胸のなかに残り続けるだろう。この先幾度体験を重ねていったとしても、一切影響されず、より切実になっていくだろう。
B先生の指導でバレエを習って、以前なら素直に出来なかったことが少しずつ、出来るようになっていた。それは、誰かに見せる為に笑顔を作るのではなくて、勝手に楽しいと感じ、勝手に笑うことだ。バレエの動作に置き換えると身体を使って笑うことだ。踊りは特に、踊らされているのでは、屈伸運動と同じになってしまうから、心の持ちようが重要だと思う。勝手に、というのは、じっと考えていくとなかなか難しい動作だ。お客さんの為に笑うのは悪いことではないだろうけれど、自分の為に勝手に笑っている人には到底かなわないと思う。
テレビからも、映画からも、音楽からも、逃れて、目で見たものを、何のイメージも先入観も持たず、そのまま書いてみたい。それがどうして、こんなに難しく、また、惨めに見えるのか、自分にはよく判らない。
隣のクラスの担任の先生が、夏に交通事故に遭ったらしく、ひどく重傷のようなのだが、子供達がショックを受けるからという理由で、詳しい事情は明かされていないようだ。今日ストレッチ教室に久しぶりに行き、話題の一つとして場を通過していった先生の惨状は、沖縄の海と東京とつづきとの間に、奇妙な橋を構築しだして、どうしても今夜は、その杭を抜くことが出来ないのだった。
先生は今この場を夢見、無関係に動き、話し合っている保護者の自分らなどの、口の動きや、窓の小鳥のさえずりを、無感情のまま見つめているのかも知れない。私が今見ているのは、不幸を祈りで和らげるという寂しい夢だ。意識とは何の事か知らない。先生がこの共通の場に再び戻ってこられるように願っている。どうか良い経過が得られますように。
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