疲労が抜けずに半日を布団で過ごした。今日は曇り空にかすかな細かい雨が降っている。以前は重苦しい曇天の空を見ると気分がいいなと思っていた時期があった。その時期の自分の写真の顔は見たくない。空の青は心の色の投影機のようだ。哀しい時には哀しく、明るい時には明るく見える。それだけのことなのかも知れない。
娘に傘を届けに小学校に行く。校庭には誰もいなかった。授業中の校舎も何故だかしんとして寂しい。学校から通達のあったトマトの苗の持ち帰りをふと思いたつ。娘の育てたミニトマトの鉢は子供では持てない重さに成長して、保護者が持ち帰るよう指導されている。鉢は水分を含んで重たい。抱きかかえると、娘の身体よりずっと軽かった。
不安定な今日の明るさだ。どこか遠くへ旅をしている途中なんだと思ってみる。雲の上を歩いているようだ。季節は自分達の上をどこまでも過ぎていく。わたしの上にも雨がふってくる。娘の上にも。おぬまさんの上にも。
傘。傘。傘。
てくてくと。
心は、何処に向かって行くのだろう。
娘に傘を届けに小学校に行く。校庭には誰もいなかった。授業中の校舎も何故だかしんとして寂しい。学校から通達のあったトマトの苗の持ち帰りをふと思いたつ。娘の育てたミニトマトの鉢は子供では持てない重さに成長して、保護者が持ち帰るよう指導されている。鉢は水分を含んで重たい。抱きかかえると、娘の身体よりずっと軽かった。
不安定な今日の明るさだ。どこか遠くへ旅をしている途中なんだと思ってみる。雲の上を歩いているようだ。季節は自分達の上をどこまでも過ぎていく。わたしの上にも雨がふってくる。娘の上にも。おぬまさんの上にも。
傘。傘。傘。
てくてくと。
心は、何処に向かって行くのだろう。
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バレエで猛特訓して、内ももが痛くて足をひきずって帰ってくる。上手くなれるかな。希い自体が無駄なのか。毎日の暮らしも、じれったい位、そう簡単に伸びてはくれない。
床で大の字になって寝ていると、電話の着信音。離婚相談を受けたお母さん友達だ。向こうもぐったりした声を出している。子供連れで我が家に遊びにおいでよと誘ってみる。散らかったレオタード類を急いで片付ける。
他人の心は不思議な動き方をする。人の悩みを知ることはいい事もあるし、最悪な事もある。場合によっては互いにとって有害でしかない。ただ、私は相手が思わぬ意外なことを言い、無言の時間がその人の後押しをする――例えば喫茶店のBGM、例えば窓外の騒音、子供の声、葉影のちらつき――その短い時間、その人がじっと考え込んでいるその目付きに、とても惹かれるのだ。
彼女とお子さんが手をつないで我が家にやってきた。以前の相談の時を思うと、まるで違う彼女がそこにいた。お茶をのんで数時間話し合う。
床で大の字になって寝ていると、電話の着信音。離婚相談を受けたお母さん友達だ。向こうもぐったりした声を出している。子供連れで我が家に遊びにおいでよと誘ってみる。散らかったレオタード類を急いで片付ける。
他人の心は不思議な動き方をする。人の悩みを知ることはいい事もあるし、最悪な事もある。場合によっては互いにとって有害でしかない。ただ、私は相手が思わぬ意外なことを言い、無言の時間がその人の後押しをする――例えば喫茶店のBGM、例えば窓外の騒音、子供の声、葉影のちらつき――その短い時間、その人がじっと考え込んでいるその目付きに、とても惹かれるのだ。
彼女とお子さんが手をつないで我が家にやってきた。以前の相談の時を思うと、まるで違う彼女がそこにいた。お茶をのんで数時間話し合う。
親しい友人から電話相談を受ける。今日はH町で会うことになった。待ち合わせたコーヒーショップで、彼女はぼんやり煙草を吸っていた。何度こうやって回数を重ねてきたんだろうとふと思う。日記のせいだ。ここで彼女の事を何回か書いたから。横顔が他人みたいだ。こんなに縁が深くなるとはね。
好事魔多し。細々とした悩み相談を受ける。ここ一週間で彼女の体調は悪化してしまった。回復を図る為、彼女は私に電話をかけてきたのだ。私はへこたれない彼女をえらい人間だと思う。弱い人間だと思う。理解できない人間だと思う。
世の中というのは結局どう生きてもいいものなのだ。何も怖ろしいことはない。結局見えたままに私の世界があるのだから。帰り道、電車の中で眠ったふりをしながら、同じことを考える。どう生きてもいいものなら、何故こういうはっきりしたその人らしい道が後ろにのこっているのだろう。この世界は私の手に負えないもので出来ている。私は途方に暮れる時のみ、世界と出会っている。
好事魔多し。細々とした悩み相談を受ける。ここ一週間で彼女の体調は悪化してしまった。回復を図る為、彼女は私に電話をかけてきたのだ。私はへこたれない彼女をえらい人間だと思う。弱い人間だと思う。理解できない人間だと思う。
世の中というのは結局どう生きてもいいものなのだ。何も怖ろしいことはない。結局見えたままに私の世界があるのだから。帰り道、電車の中で眠ったふりをしながら、同じことを考える。どう生きてもいいものなら、何故こういうはっきりしたその人らしい道が後ろにのこっているのだろう。この世界は私の手に負えないもので出来ている。私は途方に暮れる時のみ、世界と出会っている。
体調は横ばい。日常の瑣事を本気でやってみると、夜10時には燃え尽きている。これじゃ時間がなくて日記が書けないよ。作戦失敗だ。
鏡に映る我が姿は、落ち武者のようで、竹槍が似合いそうな物騒な顔になっている。気合いを入れすぎるからこんな事になるのだ。にっこり笑ってみると、落ち武者も笑った。
この日記も、紙の上を横切るようにして一ヶ月が経過した。日記のせいで我が家のおかずの質は劇的に低下している。手間をかける料理をしなくなった。家族とはありがたいもので、お皿にのったウインナーを文句も言わずに食べている。夜10時からは自分を一人にしてくれる。二人は今別室で眠っているのだ。ウインナーなんか出してごめん、と寝顔に向けて呟いてみる。続く限りは続けようと思う。
夕方から美容院に行って、髪を短くしてもらった。出来上がった髪形は、普段の自分とはまるで違う風に出来ていた。さようなら落ち武者。別人に生まれ変わったつもりで頑張ろう。
鏡に映る我が姿は、落ち武者のようで、竹槍が似合いそうな物騒な顔になっている。気合いを入れすぎるからこんな事になるのだ。にっこり笑ってみると、落ち武者も笑った。
この日記も、紙の上を横切るようにして一ヶ月が経過した。日記のせいで我が家のおかずの質は劇的に低下している。手間をかける料理をしなくなった。家族とはありがたいもので、お皿にのったウインナーを文句も言わずに食べている。夜10時からは自分を一人にしてくれる。二人は今別室で眠っているのだ。ウインナーなんか出してごめん、と寝顔に向けて呟いてみる。続く限りは続けようと思う。
夕方から美容院に行って、髪を短くしてもらった。出来上がった髪形は、普段の自分とはまるで違う風に出来ていた。さようなら落ち武者。別人に生まれ変わったつもりで頑張ろう。
胸を撃たれて、悲劇の主人公みたいに死んだ夜だった。起きると、今朝は普通の茨城だ。
さやさやと涼しい風が吹いている。畑を見に行くと、野菜が鈴なりに生っていた。一週間近く目を離していると、次に訪れた時にはもう食べ頃に育っている。ありがたいことだ。茨城の時間はいつも四季のままに過ぎている。一年がまるい輪になって、その連鎖に自分も含まれる感覚がある。東京は自尊心が傷つく街だ。自分と同じ選択をする人を大勢目にしたら、自分がただの生理現象を伴う、場所ふさぎの一人に思えてくる。長袖の作業服に着替えて、裏庭の端から端まで草刈りをする。
眠ろうとして眠れない不眠症みたいに、書くことが意識にのぼった時点でそれは無駄な努力らしい。生活は俯瞰されない。生活は何も積み重ねる事が出来ない。生活はただ「試される」場所であるのだろう。私は私の頼りなさにもめげず、目の前の事件に参加しなくてはいけない。その結果がなければ、覚悟だなどと息巻く前に、材料がないではないか。
夕方に餅を二升分、餅つき器と格闘してこね上げる。明日切り分けて、東京にももらっていこう。
さやさやと涼しい風が吹いている。畑を見に行くと、野菜が鈴なりに生っていた。一週間近く目を離していると、次に訪れた時にはもう食べ頃に育っている。ありがたいことだ。茨城の時間はいつも四季のままに過ぎている。一年がまるい輪になって、その連鎖に自分も含まれる感覚がある。東京は自尊心が傷つく街だ。自分と同じ選択をする人を大勢目にしたら、自分がただの生理現象を伴う、場所ふさぎの一人に思えてくる。長袖の作業服に着替えて、裏庭の端から端まで草刈りをする。
眠ろうとして眠れない不眠症みたいに、書くことが意識にのぼった時点でそれは無駄な努力らしい。生活は俯瞰されない。生活は何も積み重ねる事が出来ない。生活はただ「試される」場所であるのだろう。私は私の頼りなさにもめげず、目の前の事件に参加しなくてはいけない。その結果がなければ、覚悟だなどと息巻く前に、材料がないではないか。
夕方に餅を二升分、餅つき器と格闘してこね上げる。明日切り分けて、東京にももらっていこう。