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人間になればよかった...
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茨城で嫁あざらし。今日はお彼岸なのでお団子を作った。お彼岸といえば「おはぎ」が正統なのかも知れないが、このお家のやり方は団子だそうだ。上新粉を熱湯で練って食べやすい丸い玉にする。玉の大きさやゆで時間、お供えの器の常識など、自分の実家でやっていた作法とはかなり違っている。いつまでも若いから何も出来ませんでは、日本に生れた甲斐がない。こちらの真剣なまなざしをよそに、おぬまお母さんは、大きいの、小さいの、実に無造作に丸めて、おいしそうにゆでていた。自分は日本古来の季節の行事に対してかなり苦手意識があり、もっと気負わずやってもいいのだろうが、身についていない借りものの心、という感覚は否めない。カレンダーは毎日見ているが、四季の微妙な変化となると、身体があまり気にしていないという事も何か関係あるのかも知れない。
……お線香と新聞紙でくるんだ花束を車につんで、近くのお墓へお参りに行く。草ぼうぼうの場所と人の手で土をむき出しにされた場所とが、市松模様のようになっている。お墓だけは人の家前を勝手に掃除する訳にはいかないらしい。死後も残された人と関係しつづけているようなこの場所だ。小沼家の墓を見上げると、背景が青い空だった。
考え事をしながら線香の束に火をつけたら、火がつきすぎて消えない。手が燃えるう。あわてて上下左右に振り回し、事なきを得た。
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今日の手帳は予定だらけ。電車に乗る時間を計算したら、約5時間も移動して過ごした。途中下車の旅じゃないっての。
朝、親しい友人に会うためH町駅へ行く。いつもと同じ店で待ち合わせ、同じ銘柄の煙草を吸い、コーヒーを飲んで彼女の話を聞く。薬が増えていて心配したが、顔の表情から大丈夫だと感じた。最近は問題の核心に触れる話なんかまるでしない。お互いの楽屋裏が判っている。お昼から映画学校に行ってくると話すと、彼女にとっても母校なので、今さら何の用事があるのと笑われる。学生の手伝いをしてくるんだと話すと、さらに笑われた。
昼、電車を乗り継いで一時間後、神奈川県のS駅にある日本映画学校に着く。久しぶりの母校をなつかしがっている時間もなく、T先生と打ち合わせする。先生のやり方は変っていない。ひたすらかき混ぜるのみ。学生の待つ教室へ行くと、態度はごく丁寧で、内心は信頼もなにもない、いつものスタートが待っていた。脚本指導といっても教科書がある訳ではなく、各自の担当者の裁量にまかされている。学生に一人一人話を聞いてみると、皆が脚本をぜんぜん読んでいない事が判明する。学生はいつもの事ながら他力本願だ。気持がよく判る。皆、教師の指導を無言で拝聴する機会に慣れすぎてしまっているだけだ。
先生が帰りに「すまないがよろしく頼むよ」と頭を下げた。毎年すまない事になるのは自分のせいもある。ノーギャラを覚悟していたら、先生はきちんと給料をくれた。ありがたい。こちらも責任をきちんと果たさなくてはいけない。
夕方、学生の脚本を頭で反芻しながら、電車に飛び乗る。娘の帰宅時間に間に合いそうにない。一時間半後に自宅へ到着。鍵がかかったままで家に入れなかった娘は、外で口をとがらせて待っていた。今日は忙し過ぎて、肝心のわが子をないがしろにしてしまった。
夜、娘と手をつないで走る。どこでもドアで茨城へ。
今日の手帳には予定が入っていない。胸がほーっとする。ありがたいことに外のお天気も上々だ。風もほどよく、日光は強め。こんな日にお洗濯しない手はない。
洗濯、掃除、買い物、銀行、靴洗い、整頓、アイロンがけ。予定の行動を全て済ませても、午前中で終わることができた。昔は作業があまり上手くない事もあって、あっという間に一日が終わってしまったものだ。今は苦痛を感じるよりは、穏やかさを感じるようになった。なんでもない一日くらい尊いものがあるだろうかと思うようになった。洗い終わった娘の靴も、さっぱりと秋の日差しを照り返していた。
お昼過ぎ、自分の母校である日本映画学校から電話をもらう。永遠の恩師、T先生の太い声が鼓膜をビリビリ震わせる。学校の一年生の実習を手伝ってくれないかとの依頼。900フィート、10分弱くらいの作品。10分というと遊びみたいだが、実際作ってみればその難しさは侮れない。ビデオテープではなくフィルムを使って撮影するからアクシデント続出は必至だ。先生は場をかき回す発言を信条にしているから、たちまちカオスが発生、学生は例外なく疲労し、不信を抱き、混乱し、収集がつかなくなる。ノーギャラで学生と一緒くたに脳味噌がぎゅうぎゅうになる実習だ。謹んでお受けする。今まで何回となくT先生に声をかけられて、実習のお手伝いをしてきた。考えようによっては、先生と製作の現場で関わる事の出来る唯一の機会でもあった。高齢のT先生はおそらく今年で引退されるだろう。私が先生と一緒に仕事をさせてもらえる最後の機会になると思ったのだ。
歩くと足が少し痛む。午前中は電車に乗ってバレエ教室へ行く。先生のご都合で、明日やる筈のレッスンが一日早まったのだ。こんなにレッスンばかりしてたら、すっごく上手になれるかも……などと夢想する。いつか人前で踊っちゃったりして。きゃん。……そういえば昨日おぬまさんに「2カ所に通おうかと思うのだけど」と相談したら、即座に「アホだ」と言われたのだった。確かに冷静になれそうだよ。ありがとうおぬまさん。
教室にていつものレッスン。関節に油を差したように身体が楽に動く。それに昨日別の稽古場を体験できたことで、今通っている教室のカラーも判って、あらためて講師のS先生に感謝の思いが湧いてきた。先生が教室を開き続ける限りは、いつまでも参加していきたい。
……帰り道、ふわふわと雲の中を歩くようだった。どこに向かっているのかしらん。離婚を悩むお母さん友達も、H町の親しい友人も、まるで計ったように同時に連絡をくれていた。そしてどちらも状況は悪くなっていた。自分のアドバイスは無益だったのかも知れない。そうだとしても、私は私の出来ることをするだけなのだ。夢がすっと醒めて、醒めて、やがてまた夢に再浮上する。人は夢見ながら生まれてくるのだろう。私は誰かの人生を担うことはできない。夢を思い出すには媒体がいる。二人は自分を鏡にして話す事で、元々持っていた夢を思い出したがっているのだろうか。
ふわふわと電柱にぶつからないように歩く。歩けばどっかに着くだろう。道路の白線が、延々と足もとをゆるやかに辿って、はるか彼方まで続いている。
役員をしていたら意外な出会いもある。背の高いBさんと雑談していたら、なんと普段はバレエの講師だそうだ。ストレッチとバレエ教室をご自宅で開いているとのこと。灯台もと暗し。レッスン曜日も現在の教室と重なっていない。とてもいい機会だと思い、体験をしに初めて教室にお邪魔した。
ご自宅の地下に作られた稽古場には、鏡が二面についてバーもあり、床も踊り専用の木板で出来ている。バレエを習いだしてから他の先生に指導を受ける機会は一度もなかった。他の生徒さん達に挨拶したあと、ぎこちなく着替えをすませる。和やかで、楽しい会話が飛び交う、ゆったりした教室だ。体中を伸ばしながら同時に全身を鍛える運動を行う。ストレッチが7、バレエが3の比率くらいの運動量で、身体の負担も軽い。
……昔、尊敬していたシナリオライターのK先生が、ヨガを始めて健康になったと言っていた。ヨガの講師に目を閉じて最も素晴らしい事を考えなさい、と指導された時、最上のイメージがひとつも思い浮かばず、レベルを下げて下げて、下げて、それでもネガティブな想像しか出なかったそうだ。それが今では毎日がまるで変わったんだよ、焦らなくなったんだ、と血色のいいお顔で晴れ晴れと私に言ったのだった。不遜にも、私は、その話をきいて(それは、ライターとしてはまずい事ではないだろうか)と思ったのだった。自分の身体を健康にしたら、良い仕事が出来なくなるではないかと。煙草スパスパ徹夜の〆切地獄が傑作を生むとは限らないけれど、肉体と精神の間には相関作用があって、安定した朗らかな心は、人間の愚かな苦悩を浄化してしまうのではと……恐れたのだった。今、自分はバレエの上達を目指しながらも、K先生の晴れ晴れしたお顔を思い出し、自問自答するのだ。……
慣れなくて知らない動きばかりだけど、やってみるとなんとかついていけた。女性の腕の美しい曲線が一斉に動く。健康って、きれいだ。
昨日刈った筈の草がまだらに残っていた。夕暮れの薄暗がりの中、適当に勘で刃を動かしたからだろう。朝から草刈り機のエンジンを始動させて、綺麗に刈直すことにした。東京に戻る日に草刈りはしていけないと、以前決めたのに。
……石も土も、顔にバチバチ当たる。日が高くなり、熱が一斉に地表を燃え上がらせる。草刈りだって、草の命を奪う以上、重要な他の仕事と同一の条件で出来ている。仕事は奪うことだ。世界から奪いとって自分のものにすることだ。創造ではない、略奪だ。目に映る何もかもを自分そのものしてしまうこと………顔も身体も、全身に草の飛沫を浴びて立っていた。エンジンが止まり、夢は冷めた。
お昼過ぎに東京に戻る。香水に包まれた女性達と電車に揺られながら、我が身のまぬけをふりかえる。爪の間に入った土や、ゴーグルの痕のついた目の下辺りが恥ずかしい。東京に帰る日は、きれいにして帰ること。疲れて自宅に帰ると家事をする気力が失せるから、東京に戻る日に草刈りはしない。自分で作ったルールを忘れていた。
深い疲労。夜はおぬまさんの奢りで、もんじゃ焼きを食べに行った。
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