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人間になればよかった...
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キンモクセイは本当に良い香りがする。この季節が来ると、なるべく樹のある所を通って外出するようにしている。知り合いのお母さんはこの匂いが大嫌いだそうで、側を通るだけで頭痛がするそうだ。キンモクセイが生えていない通りだけを選んで、家に帰るまで自転車で1キロも遠回りするという。そんな人とも友達になれるのだから、人の相性は判らない。
午前中は小学校に行って役員の仕事をする。学校新聞を作る為に、レイアウトを考えたり、写真を選んだりして過ごす。記事は無味乾燥だから書くのは造作ないが、似たようでいて違う紙面、というのを考えるのが難しい。水戸黄門の話を考える人もこんな苦労をするのだろうか。新味と、安定感。……
夕方、学生と電話で連絡をとる。学生は担任の講師に撃ち殺されていた。第1稿がはるかに面白いと言われたらしい。講師の首を持ってグラグラ揺らしたくなる。自分は学生を最後まで励ますことに決めた。
夜は娘の八歳の誕生日だったので、久しぶりにケーキを焼いた。好物ばかり並べてテーブルをいっぱいにして、家族でささやかなお祝いをする。丁度8年前の今日は出産していた訳だ。娘を眺めると、同じ顔で嬉しそうにケーキを食べていた。
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興奮していたのだろうか、よく眠れないまま朝を迎えた。自業自得で寿命が三年は縮んだ気がする。
午前中はストレッチ教室へ。B先生の指導で身体の隅々を伸ばしていく。心臓の不調が消えて、ちぢこまっていた身体が元の身長に戻った。薬より体操の方が効き目がある。体調が戻ったら急に深い眠気に襲われた。電車に乗り込んで約1時間、釣り皮に掴まったまま眠りこんだ。
午後に日本映画学校へ行く。脚本チームの学生達は皆、寝不足でだるそうに集まっている。昨日、徹夜で原稿をあげてきたせいだ。よく頑張ったねと言ってあげたい。読んでいると苦労が判る分、簡単にはNGを出せない。だけど、T先生はこの脚本ではとてもオーケーは出してくれないだろう。休憩を時折挟みながら、長い長い話し合いを続ける。それぞれの限界があらわになると、学生達は正体を見せ始める。そしてたぶん講師役の私も、知らずに自分の限界をあらわしているだろう。
今夜は休みをとるように指示してから、夜八時に別れる。時間が足りない。一時間後に家に戻ると、おぬまさんと娘は一緒に冷凍のご飯で焼きめしを作っていたらしい。散らかったままのフライパンと、大の字で眠っている娘を見て、胸がいたんだ。
娘の同級生のお母さんに誘われて、稲城市にあるYランドに3家族で行ってきた。無料で遊べるチケットを頂き、会場まで車に同乗させてもらうという、ありがたい機会だった。時々互いの子供達を交代して付き添いながら、存分にめいっぱい遊ばせた。
遊園地でもキンモクセイが香っていた。休憩して熱い茶を飲んでいると、怖そうな施設が目に入った。あんなものに乗ったら寿命が縮む、とすぐに目をそらした。それは、クレーンにゴムバンドをぶら下げただけの鉄筋の建物、バンジージャンプだった。
帰り時間間際になって、その施設はグレーに陰りをおびてきた。飛ぼう、とMさんの御主人が飛んだ。心臓がタフだと評判の女性Mさんも、続けて飛んだ。Mさんの身体はぐーんとゴムのように上下した。やってごらん、気持ちいいよとMさんは言った。自分は見ているだけでも身が縮んで、死んでも参加するつもりはなかった。背中を向けて、帰り支度をした。
学生に偉そうに指導するなら、バンジーを飛びなさい。と心の声が呟いた。馬鹿な、と思った。バンジーと指導は関係ないだろう、と思った。しかし、一度ささやいた心の声は自分を静かに問い続けた。やってもやらなくても何の意味もない事だ。幾ら正論で打ち消しても、声は強迫観念になり、飛ぶまでは止みそうになかった。
遊園地では片付けが始まっていた。まだやってますか、と管理室に声をかけると、スタッフの方は5人いて、はいやってますよ、と言った。事故が起きた際の保険のような書類にサインを書きながら、自分ってどうしようもないと思う。体重を量ったのち、歩こうとして鞄を下に落とした。緊張している。先ほど飛んでみせたMさんの御主人が、にやりと笑って荷物と伊達メガネを預かってくれた。
身体にゴムベルトを装着してくれた女性スタッフに、事故はありましたか、と聞くと、一度もないです、と慣れた口調で答えた。皆同じ事を聞くらしい。ここにいるスタッフは全員何度も飛んでいます、私も飛びました。逆さになる瞬間に心臓がぐっときますけど、後は気持いいですよ。
地上からすでに足が震えている。鉄骨の階段がわざとスケスケ作りで「屋上まであと42段」などと丁寧に脅かしてくる。信じられないほど景色が清々しい。小さい点になった知り合いが笑いながら見上げている。娘が私の名を絶叫して手を振っている。
足元を見下ろす。目が眩む。隣に並んでいた男性スタッフにすがるように話しかける。あのフェンスから向こうに落ちちゃう事ないですかね。絶対ないです。頭を打つ事はありますか。打たないようにまっすぐ落ちて下さい。
さあ、とぼう。この生き方しかない。
3、2、1、ゼロ。
知り合いの笑い声が聞こえた。先ほどベルトを装着してくれた女性スタッフが、不思議な親近感のある笑みで見ているのが、さかさに見えた。
茨城での暮らしは、東京の暮らしと少しもリンクしない。いつもの通り荷支度をしながら、手帳を眺めて予定の確認をする。自分がふたりいて、携帯で連絡など取り合いながら暮らしていけたら、どんなに良いだろう。
今日は心が眠っている。午前中は娘をピアノ教室へと送り出し、家でひとり家事をする。誰とも話をしていない。テレビをつける。直ぐに消す。調子がでない。メダカの水槽に水を足す。酷い事がしたくなり、割り箸で外敵のふりをして追いかけまわす。透明だった子供達はすっかりミニメダカの姿になっていた。父と母にあたるメダカは、自分達の卵がすぐ隣の水槽でこんなに孵ったとは夢にも思わないだろう。そろそろ一緒の水槽に入れて反応をみたいが、彼らに親子の認識能力があるだろうか。「あらあんた、餌が沢山入ってきた。この小さい小魚うまいのよね」「おいお前!食べる前にそいつの顔を見ろ。お、俺達そっくりじゃねーか……生き別れの子だぞ、おい……!」「パパー!」みたいな。メダカは迷惑そうに私の割り箸から逃げ回っていた。
茨城生活を、全く違う基準でルールを作って暮らそう。このままでは、きっと自分は通いきれなくなってしまうだろう。
夕方、闇おでんを持って東京に帰宅。マンションの周辺に甘い香りが漂っていた。今年初めてのキンモクセイの花。
今日は茨城で朝を迎えた。雨戸が閉まっていて真暗なので、夜が明けたかどうか判らない。半ば眠ったまま居間に起き出すと、すでに寝坊して8時だった。
来週半ばに娘の誕生日があるので、なにかプレゼントを、というおぬまお母さんの好意を受けて、三人で近場にある大型ショッピングモールに出かけた。夏休みにちびっこ達と来た馴染みの場所だけど、夏のことが随分と遠くに感じる。店内は様変わりして秋の雰囲気で統一されていた。
娘はお目当てのゲームコーナーで遊び始めた。以前この場所で、気が狂いそうな目で釣り銭を探していた少年を見た事を不意に思い出した。今日は同じ場所で、印象深い別の親子連れを見かけた。始めはその子のちぐはぐな服装が目に止まったのだ。母親らしき人は髪を男性のように刈り上げている。子供は悪態と罵倒を繰り返しながら、さかんに母に蹴りを入れている。子供の訴えはよく判らないが一切聞く気はなさそうだ。泣きすぎて頭いたくなった、と子供が漏らした。母親は終始まったく表情を変えなかった。
あれやこれや、好き勝手なリクエストをする娘に、おぬまお母さんは笑顔で付き合っている。娘は散々商品を眺めて楽しんだあと、ゲームのソフトを買ってもらって満面の笑みを浮かべた。最上階の広いフロアで、焼きたてのピザとオレンジジュースを飲む。自分は何かの印象を心から消す事が出来なくて、しばらく上の空でピザをひっぱった。
帰り道、通いなれた道なのに、間違えて反対に曲がってしまった。もう何も気にするなと自分に言い聞かせる。気にしないで、そのまま自分の行く道へ通り過ぎよう。
夕方、おでんを煮ると、娘が闇おでんにするという。それは電気を消すのだそうだ。お母さんに言うといいよと言う。そんな訳で、今夜は箸も見えないような闇のなかで、熱々のおでんを食べた。
吸い込まれるような空の色だった。秋の弱い光と風が調和している。葉が枯れ落ちる前の最後の緑色だ。掃除洗濯も、一人でやると早く片づいた。
今日は何もしたくないと思う。古典も読みたくないし、字の稽古も、バレエもしたくなかった。K駅に行ってみようかと、ふと思う。ここの広場の電気仕掛けの噴水が、私は好きなのだった。
水の勢いの強弱と、下から当てる照明の幻想的な色合いで、水が芝居をしているような楽しい動きをする。音楽は有名なクラシック音楽で、日によってプログラムが違う。好きな回のものに当たるかは、行ってみて、判明するだろうと思い、何も決めずに出かけることにした。
駅に着くと、遊興施設の方からジェットコースターの轟音が地鳴りのように聞こえてくる。中央の広場は光をたたえた湖のようだった。お客さんも沢山集まっていて、思い思いに食事などしている。水から離れたところに座って、誰も座っていない場所から目当ての噴水を眺めた。
音楽のプログラムは、自分の好きなものだった。思い切って来てみて良かったと思う。誰にでも判る、単純な美しさ。空に向かって吹き上げる水のしぶきが、落ちながらも上昇していく。終わるものが始まるものと対になっている。
空自体が発光しているような青だった。
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