娘の同級生のお母さんに誘われて、稲城市にあるYランドに3家族で行ってきた。無料で遊べるチケットを頂き、会場まで車に同乗させてもらうという、ありがたい機会だった。時々互いの子供達を交代して付き添いながら、存分にめいっぱい遊ばせた。
遊園地でもキンモクセイが香っていた。休憩して熱い茶を飲んでいると、怖そうな施設が目に入った。あんなものに乗ったら寿命が縮む、とすぐに目をそらした。それは、クレーンにゴムバンドをぶら下げただけの鉄筋の建物、バンジージャンプだった。
帰り時間間際になって、その施設はグレーに陰りをおびてきた。飛ぼう、とMさんの御主人が飛んだ。心臓がタフだと評判の女性Mさんも、続けて飛んだ。Mさんの身体はぐーんとゴムのように上下した。やってごらん、気持ちいいよとMさんは言った。自分は見ているだけでも身が縮んで、死んでも参加するつもりはなかった。背中を向けて、帰り支度をした。
学生に偉そうに指導するなら、バンジーを飛びなさい。と心の声が呟いた。馬鹿な、と思った。バンジーと指導は関係ないだろう、と思った。しかし、一度ささやいた心の声は自分を静かに問い続けた。やってもやらなくても何の意味もない事だ。幾ら正論で打ち消しても、声は強迫観念になり、飛ぶまでは止みそうになかった。
遊園地では片付けが始まっていた。まだやってますか、と管理室に声をかけると、スタッフの方は5人いて、はいやってますよ、と言った。事故が起きた際の保険のような書類にサインを書きながら、自分ってどうしようもないと思う。体重を量ったのち、歩こうとして鞄を下に落とした。緊張している。先ほど飛んでみせたMさんの御主人が、にやりと笑って荷物と伊達メガネを預かってくれた。
身体にゴムベルトを装着してくれた女性スタッフに、事故はありましたか、と聞くと、一度もないです、と慣れた口調で答えた。皆同じ事を聞くらしい。ここにいるスタッフは全員何度も飛んでいます、私も飛びました。逆さになる瞬間に心臓がぐっときますけど、後は気持いいですよ。
地上からすでに足が震えている。鉄骨の階段がわざとスケスケ作りで「屋上まであと42段」などと丁寧に脅かしてくる。信じられないほど景色が清々しい。小さい点になった知り合いが笑いながら見上げている。娘が私の名を絶叫して手を振っている。
足元を見下ろす。目が眩む。隣に並んでいた男性スタッフにすがるように話しかける。あのフェンスから向こうに落ちちゃう事ないですかね。絶対ないです。頭を打つ事はありますか。打たないようにまっすぐ落ちて下さい。
さあ、とぼう。この生き方しかない。
3、2、1、ゼロ。
知り合いの笑い声が聞こえた。先ほどベルトを装着してくれた女性スタッフが、不思議な親近感のある笑みで見ているのが、さかさに見えた。
遊園地でもキンモクセイが香っていた。休憩して熱い茶を飲んでいると、怖そうな施設が目に入った。あんなものに乗ったら寿命が縮む、とすぐに目をそらした。それは、クレーンにゴムバンドをぶら下げただけの鉄筋の建物、バンジージャンプだった。
帰り時間間際になって、その施設はグレーに陰りをおびてきた。飛ぼう、とMさんの御主人が飛んだ。心臓がタフだと評判の女性Mさんも、続けて飛んだ。Mさんの身体はぐーんとゴムのように上下した。やってごらん、気持ちいいよとMさんは言った。自分は見ているだけでも身が縮んで、死んでも参加するつもりはなかった。背中を向けて、帰り支度をした。
学生に偉そうに指導するなら、バンジーを飛びなさい。と心の声が呟いた。馬鹿な、と思った。バンジーと指導は関係ないだろう、と思った。しかし、一度ささやいた心の声は自分を静かに問い続けた。やってもやらなくても何の意味もない事だ。幾ら正論で打ち消しても、声は強迫観念になり、飛ぶまでは止みそうになかった。
遊園地では片付けが始まっていた。まだやってますか、と管理室に声をかけると、スタッフの方は5人いて、はいやってますよ、と言った。事故が起きた際の保険のような書類にサインを書きながら、自分ってどうしようもないと思う。体重を量ったのち、歩こうとして鞄を下に落とした。緊張している。先ほど飛んでみせたMさんの御主人が、にやりと笑って荷物と伊達メガネを預かってくれた。
身体にゴムベルトを装着してくれた女性スタッフに、事故はありましたか、と聞くと、一度もないです、と慣れた口調で答えた。皆同じ事を聞くらしい。ここにいるスタッフは全員何度も飛んでいます、私も飛びました。逆さになる瞬間に心臓がぐっときますけど、後は気持いいですよ。
地上からすでに足が震えている。鉄骨の階段がわざとスケスケ作りで「屋上まであと42段」などと丁寧に脅かしてくる。信じられないほど景色が清々しい。小さい点になった知り合いが笑いながら見上げている。娘が私の名を絶叫して手を振っている。
足元を見下ろす。目が眩む。隣に並んでいた男性スタッフにすがるように話しかける。あのフェンスから向こうに落ちちゃう事ないですかね。絶対ないです。頭を打つ事はありますか。打たないようにまっすぐ落ちて下さい。
さあ、とぼう。この生き方しかない。
3、2、1、ゼロ。
知り合いの笑い声が聞こえた。先ほどベルトを装着してくれた女性スタッフが、不思議な親近感のある笑みで見ているのが、さかさに見えた。
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