青梅

午前中は一人で留守番をする。発音の練習をする。｢られられ、りるりる、れろれろ、ろらろら｣ついでに胸式呼吸と、バレエのアンディオールの練習もする。子供用トランポリンに乗って、ジャンプと足首を強くする練習をする。片足ずつ飛んだり、空中で足を２回打つ練習をする。一人でないと出来ないことをしよう。呟こうが、独り言を言おうが、とにかくここでは一人で出来る勉強を積む。先日、草刈りが上達したと義母に褒められた。それに、家の畑。野菜の味は毎年グレードアップしている。自分の道は、曲がっていようと先細りしようと、私しか歩けない。こんな道が待っていたとは、子どもの時は全く予想もしなかったけれど。
庭に青梅が落ちている。枝を見上げたら、美味しそうな実が鈴生りになっていた。ひとつ拾って思いきり遠くへ投げると、家の車にぽこっと当たった。傷がつかなかったか、心配して見に行った。

受信

私の人生で、もう出来る事は、はみ出していると思う。私の父はよく私に向かって、おまえを見ていると、覇気や元気といったものを感じない、うなぎみたいだ、傍にいると力を吸い取られる、と眉根をよせて言ったものだ。私は確かに、発信のタイプではなく、受信のタイプだと思う。うなぎは心外だが、電気うなぎのように放電する気合いもなく、多種多様な価値観を真に受けて、目をまわしているだけの日本産のうなぎだ。
受け皿があふれている。音ばかりがある。雨のような音、テレビの音、どこかで耳にした音楽、過去の会話。窓を眺めながら雑音を聴く。

日記が逆流して

茨城で夜を迎える。寒過ぎるので部屋の暖房を入れた。明日は雨らしいから草刈りも出来ないだろう。娘と義母が楽しげな声をあげている。身体をくすぐりっこでもしているのだろうか？二匹の猫になったかのように。
ここ数日、日記がつらい。読み返すのも辛いし、書くのも辛い。自分に何が起きているのか、よく判っていない。眠っていると、まっくろいものがやってくる。

娘と歯を磨く

嫌がる娘の手をひいて、近所の歯科に行く。真白い部屋で順番を待っていると、娘は診察室の奥から聞こえる音を気にしている。担当になった院長先生は良い方のようで、丁寧に症状を説明してくださる。これはねえ、治すのに三、四回はかかりますね、と苦笑されて、ライトで照らされた患部を指さした。娘は口をあけたまま、私を上目遣いで見る。なんという惨状。永久歯が数本、可哀想なことになってしまった。これは明かに親のわたしの責任で、悪くなると知りつつ、こんなになるまで放置していたのだ。全部きれいに治しますから、その後は絶対虫歯を作らないようにね、と先生は穏やかに治療を請け負ってくれた。
夜、寝入りかけた娘の布団をはぎとって、はみがき！と言うと、そうだそうだ、と言いながら娘は素直に起きてきた。生まれたては、はぐき、次に豆粒みたいな歯、乳歯、それから永久歯。この子は今は自分で歯を磨いている。無事に大人になれるだろうか？二人で歯磨きしていたら、顔がそっくりだと思う。

自分も焦るな

一日中、軽い頭痛で、頭をぽんぽんと叩いて過ごした。寝不足気味だったので、少しバランスを崩したのかも知れない。今夜は日記を粘らずに、早めに休むことにした。

のろのろ

朝、Ｈ町駅の友人から電話をもらう。今日は短く１時間くらい会って話をした。彼女の様子に食欲が少し戻って、頑張ろうかという兆しが現れる。いつのまにか良くなっていた、という位、緩慢な付き合いで行こうと思う。要領の悪さと、諦めの悪さで、こうやって延々とやっていけば、運命の方が舌打ちして、根負けしてくれるかも知れない。