新型上陸

運が悪くて祝日、病院はどこも閉まっていた。家族に新型インフルエンザの疑いがあれば、気合いの問題ではなくて９９に行ってはいけないと朝に気が付いた。お店に電話してお休みのお願いをすると、先輩のＳさんが、祝日でも緊急外来で病院に行ける事を教えてくれた。オレも深夜に一回使った事あるから、行けると思いますよ。知らなかったので本当にありがたかった。タクシーでＨ丘の病院に行くと、マスクをして手をつないでいる親子が大勢待っていた。３時間待ったあとに、ようやく診察を受ける事が出来た。娘はＡ＋反応で新型にかかっていることが判った。やっぱり新型だった。季節性のと同じ扱いで大丈夫とのことだった。熱が下がってから３日は自宅待機するよう指示を受けた。
タクシーで家に戻るなり、私も気持が悪くなってきた。高熱と頭痛と吐き気。本当にきつい症状のインフルだ。９９に出勤して菌をばらまかなくて良かったと思った。夜になって軽くなったので、這っていって娘の熱を測ったら、こちらも下がっていた。

翌日

娘が高熱を出した。吐き下ししながら苦しがっている。体温計で計ったら４０度ちょうどだった。氷が足りなくなって、夜中のコンビ二へ買いに出かけた。相棒は撮影中で、極度の睡眠不足だから、娘の側に近寄らないよう頼んだ。自分は明日バイトで、今は共倒れする訳にはいかない。今夜は娘の看病だ。

１０本のろうそく

今日は娘の１０歳の誕生日だった。娘は起きるなり、何かがちがって見える、ときょろきょろしている。背が高くなったみたいなの、と言うので、そんなことあるかと突っこみたくなったが、幸福感を感じているようだ。相棒が撮影で留守だったので、二人で原宿のお店に行き、女の子グッズを存分に買ったり、ケーキを焼いたりして過ごした。学校のことは考えたくなかった。来週、新しいクラス運営になる。早い段階で崩壊する、その時の新人先生のフォローを練っておかなくてはいけない。今日はただ、娘に特別な１日と感じて欲しかった。

緊急保護者会

相棒の撮影隊は今日からクランクイン。廃墟スタジオでの撮影ということで、電気も通っているし、少しほっとした。無事に終わって欲しいと祈るばかりだ。
午前中、スクールカウンセリングを受けに行き、学校の片隅にある小さな部屋で、娘のクラスの現状や、現担任の先生の話など聞いた。担任の先生は保護者の前に立つ事も出来ない程、プレッシャーを感じていたのだと、カウンセラーから教えてもらった。このまま子ども達とお別れも何もなく、休養生活に入られるという事だった。
午後６時、緊急保護者会を聞きに再び小学校へ行った。担任の先生の体調不良は、今回の騒動が原因とは言えない、と医者が証言したそうだ。それから、新しい担任の先生は、９月から臨時で来ていた、少人数担当で専科だったＨ先生に決まったとのこと。Ｈ先生は教員試験が合格すれば、来年から本採用となる新人先生だ。誰もが皆新人でした、教員も保護者も皆で先生を支えていきましょう、という展開になった。質問を二三受けたあと、会は早々に閉会となった。嘘つきだと思った。この対策で解決できると、この中の何人が信じているだろう、と思った。皆、嘘に乗って、これから頑張りましょうと言い合った。

台風

重苦しい気分が朝まで続いていた。台風の中、私鉄を乗り継いでＳ先生のバレエ教室へ行った。体を動かしている内に少し気分が軽くなった。起きてしまったことは仕方がない。皆が全員悪いか、皆が全員悪くないか、ということかな、と相棒に言うと、どちらも同じことだなと相棒は答えた。考えても無駄だ、と言って仕事に出かけていった。担任の先生は冗談を言うことの下手な人だった。子ども達に対しても真面目で厳しく、正しいことを志向し、努力されていたように見える。子供たちはそれを除けてしまった。もうそれは古くさいものとして、彼等が生きる上で無用と見なされたのかも知れない。

電話

夜、娘のクラスの連絡網が回ってきた。担任の先生が急遽体調を崩されて、しばらく休養が必要になったとのこと。代理の担任の話も含めて今後の対応を相談する為に、校長も交えて明後日に緊急保護者会を開くそうだ。先生も限界だったのだろう。