娘が決闘を申し込んできた。娘の肩を掴んで乱暴に揺らしたり、上に乗りかかって押しつぶしたりした。娘のサンドウィッチ。パン代りの布団の下で、娘の足がはみ出している。
居間ではテレビが一日中流れている。お仕事が休みの義母は、クリスマスケーキの特集を仕方なく観ていた。テレビには少しの面白さも確かに含まれているから、消す訳でもなく、宣伝をまぎれ込ませた情報を受け取ってしまう。昔はいい番組もやったんだけど、最近は駄目だね、と義母はチャンネルをまた動かしたので、画面は多様な価値観を繋がりもなく映し出した。
義母がいくら暇そうだからといって、暇つぶしに私が決闘を申し込む訳にはいかないから、二人でのんびりとお茶を飲んだ。
今日は本を読み、自己流で勉強して暮れていった。家族以外誰とも話をしないこの茨城の週末を活用しようと思う。
表現は、労苦ではないかと最近考える。自分は表現されたものから労苦を感じとって圧倒されるのではないだろうか。その道の達人は皆、自然体にも見えるけれど、あれは、労苦が原発の臨界現象のように溢れて、飽和した状態ではないか、と。
居間ではテレビが一日中流れている。お仕事が休みの義母は、クリスマスケーキの特集を仕方なく観ていた。テレビには少しの面白さも確かに含まれているから、消す訳でもなく、宣伝をまぎれ込ませた情報を受け取ってしまう。昔はいい番組もやったんだけど、最近は駄目だね、と義母はチャンネルをまた動かしたので、画面は多様な価値観を繋がりもなく映し出した。
義母がいくら暇そうだからといって、暇つぶしに私が決闘を申し込む訳にはいかないから、二人でのんびりとお茶を飲んだ。
今日は本を読み、自己流で勉強して暮れていった。家族以外誰とも話をしないこの茨城の週末を活用しようと思う。
表現は、労苦ではないかと最近考える。自分は表現されたものから労苦を感じとって圧倒されるのではないだろうか。その道の達人は皆、自然体にも見えるけれど、あれは、労苦が原発の臨界現象のように溢れて、飽和した状態ではないか、と。
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人にもたれかかることは、私の場合は、禁止だ。自分に対して使う法則は、人に対しても応用しなくてはいけない。だから、自分にはうんとルーズになるといい。自分がいい加減でなければ、どうしてこの場所を愛することが出来るだろうか。だからいいよ。電車のおやじ。
手をかざして、時計を見る。 11時11分11秒。
上野駅のホームは、人の流れが乱れやすい。不安そうに電工掲示板の下に立っている人がいた。私と同じカートを引きずっている人がいた。本屋で立ち読みしている人がいた。切符を落として拾っている人がいた。階段を二段ずつ大股で下りていく人がいた。電車の掃除をしている人がいた。
手をかざして、時計を見る。 11時11分12秒。
手をかざして、時計を見る。 11時11分11秒。
上野駅のホームは、人の流れが乱れやすい。不安そうに電工掲示板の下に立っている人がいた。私と同じカートを引きずっている人がいた。本屋で立ち読みしている人がいた。切符を落として拾っている人がいた。階段を二段ずつ大股で下りていく人がいた。電車の掃除をしている人がいた。
手をかざして、時計を見る。 11時11分12秒。
S先生のバレエを習いにI駅へ。今年は踊ってばかりで暮れていく。楽しいから、練習しに行くという気がしない。いつの間にか着いている。
今日は一人、新しい生徒さんが来ていた。S先生の指導も基本を丁寧に伝える感じで、難しい動作はあまりなかった。普段以上に神経を集中していると、身体の弱点ばかりが感じられる。筋力、関節の柔らかさ、まだまだ足りないようだ。日本女性の美徳に反して、バレエは、強い。そうして、速い。優しいだけではバレエにならない。
10分だけ先生と悪魔の靴も練習した。大事に履いてきた靴が少しゆるんできた。最後には先が潰れるか底が曲がるかして、立てなくなる宿命で、そうなると替え時だ。下手な奴が体重にまかせて乗るから、早く潰れる道理なのだった。上手な踊り手は、靴を履かないでもつま先で立てる……ぐらいに気合いを入れて、自分の上半身で引っ張り上げて立っているのだった。
帰り道、バレエで発散されて、くたくたなのが気持ちいい。空も随分高く見える。全てが自然で、物事の途中にいるんだと思える。靴と仲良くなれる日は来るだろうか。
今日は一人、新しい生徒さんが来ていた。S先生の指導も基本を丁寧に伝える感じで、難しい動作はあまりなかった。普段以上に神経を集中していると、身体の弱点ばかりが感じられる。筋力、関節の柔らかさ、まだまだ足りないようだ。日本女性の美徳に反して、バレエは、強い。そうして、速い。優しいだけではバレエにならない。
10分だけ先生と悪魔の靴も練習した。大事に履いてきた靴が少しゆるんできた。最後には先が潰れるか底が曲がるかして、立てなくなる宿命で、そうなると替え時だ。下手な奴が体重にまかせて乗るから、早く潰れる道理なのだった。上手な踊り手は、靴を履かないでもつま先で立てる……ぐらいに気合いを入れて、自分の上半身で引っ張り上げて立っているのだった。
帰り道、バレエで発散されて、くたくたなのが気持ちいい。空も随分高く見える。全てが自然で、物事の途中にいるんだと思える。靴と仲良くなれる日は来るだろうか。
娘を学校に送り出した後、クッキーを沢山焼いた。いつもなら厚いの薄いのが出来ても気にしないのだが、今日は均等に、焼き色も綺麗につけようと、慎重に焼く。作品、と言いたくなる良い仕上がりになった。半分を娘のおやつに残しておいた。
お昼にB先生のお宅に着くと、数人の生徒さんが先に来てオードブルなどを並べていた。稽古場で踊る姿しか知らなかったが、集まった方々の料理の腕前はただ事ではない。皆が座席に揃ったあと、塩釜で巨大な鯛を蒸したものや、シャンパンビネガーで味付けしたクレソンと柿のサラダなどを食べた。塩釜なんて個人のお宅で見たのは初めてだ。塩の塊を包丁の峰で割ると、香草の詰まった鯛が顔をだした。レストランかと思ったよ。
飛び交う会話の内容は、自分の生活圏と大分違っている。住む街が同じでも、暮らしに接点はない。決して互いの圏を踏み越えてはいけないと思って、聞く方に回った。悪意もないのに、好意を空回りさせてしまうのは厭だった。
クッキーは連れてこられた小さな子供さん達に人気だった。よかった。時計を見上げると娘の帰宅時間をとっくに過ぎている。先生に御礼を言ってお宅をあとにした。ドアをあけると、家の鍵を自分であけて待っていた娘が半泣きで飛びついてきた。取り置いたクッキーを棚から出して、平謝りした。
お昼にB先生のお宅に着くと、数人の生徒さんが先に来てオードブルなどを並べていた。稽古場で踊る姿しか知らなかったが、集まった方々の料理の腕前はただ事ではない。皆が座席に揃ったあと、塩釜で巨大な鯛を蒸したものや、シャンパンビネガーで味付けしたクレソンと柿のサラダなどを食べた。塩釜なんて個人のお宅で見たのは初めてだ。塩の塊を包丁の峰で割ると、香草の詰まった鯛が顔をだした。レストランかと思ったよ。
飛び交う会話の内容は、自分の生活圏と大分違っている。住む街が同じでも、暮らしに接点はない。決して互いの圏を踏み越えてはいけないと思って、聞く方に回った。悪意もないのに、好意を空回りさせてしまうのは厭だった。
クッキーは連れてこられた小さな子供さん達に人気だった。よかった。時計を見上げると娘の帰宅時間をとっくに過ぎている。先生に御礼を言ってお宅をあとにした。ドアをあけると、家の鍵を自分であけて待っていた娘が半泣きで飛びついてきた。取り置いたクッキーを棚から出して、平謝りした。
いつも危機意識を忘れない姿勢は、人を飛躍させるけれど、試みに失敗した時は悲惨だ。結局変化するのは、錯誤の連続、環境に合わせて無理をする、ということで、常に良い変化とは限らないのだから、その都度、賭ける、ということだ。
三本指が単なる習慣になってきた。久しぶりに北海のあざらしに連絡をとると、彼女は今南極の叔母さんのところにいて、腹を叩きながら暮らしていた。そんな彼女を三本指に登場させるつもりはないが、真面目は真面目で弊害がある。とにかく何か喋らないと、という領域からようやく少しずつ余裕が出来た。賭けろ、賭けろと言い聞かせる。誰かの為にやっている訳ではないのだから。
火曜日。ストレッチ教室。午後はI駅へ行き、デパートでクッキーの型を買った。明日はB先生のお宅でクリスマスパーティーがある。オーナメントクッキーを焼いて持っていく予定。
三本指が単なる習慣になってきた。久しぶりに北海のあざらしに連絡をとると、彼女は今南極の叔母さんのところにいて、腹を叩きながら暮らしていた。そんな彼女を三本指に登場させるつもりはないが、真面目は真面目で弊害がある。とにかく何か喋らないと、という領域からようやく少しずつ余裕が出来た。賭けろ、賭けろと言い聞かせる。誰かの為にやっている訳ではないのだから。
火曜日。ストレッチ教室。午後はI駅へ行き、デパートでクッキーの型を買った。明日はB先生のお宅でクリスマスパーティーがある。オーナメントクッキーを焼いて持っていく予定。
体調を崩して、一日をじっとして過ごした。朝は寝坊。いったん起きて娘を送り出したあと、昼過ぎまで眠った。
起きると、体にはいつの間にか分厚い布団がかけられていた。机には相棒の字で外出する旨の置き手紙があった。お蔭で寒気が収まったと思う。急がず、ゆっくりと動くようにして、溜まっていた家事を片付けた。冬の寒さのせいだろうか。自分の中にあるバランスが何かの法則で狂い出すのだろうか。心が反応しなくなり、置物のようになってしまう。
夕刻、娘と相棒が帰ってきて、大丈夫かと言う。気分が沈む、と伝えると、相棒は責めもせず、じゃあ今日は三人で買い物に行くかと言ってくれた。
夜の八時半に三人でスーパーへ行く。これから材料を買うのだから、食べる頃は何時になるか判らない。二人に許されて暮らしている。買い物袋を持ってくれる相棒と娘と、夜の舗道をただ普通に歩いて帰る。
起きると、体にはいつの間にか分厚い布団がかけられていた。机には相棒の字で外出する旨の置き手紙があった。お蔭で寒気が収まったと思う。急がず、ゆっくりと動くようにして、溜まっていた家事を片付けた。冬の寒さのせいだろうか。自分の中にあるバランスが何かの法則で狂い出すのだろうか。心が反応しなくなり、置物のようになってしまう。
夕刻、娘と相棒が帰ってきて、大丈夫かと言う。気分が沈む、と伝えると、相棒は責めもせず、じゃあ今日は三人で買い物に行くかと言ってくれた。
夜の八時半に三人でスーパーへ行く。これから材料を買うのだから、食べる頃は何時になるか判らない。二人に許されて暮らしている。買い物袋を持ってくれる相棒と娘と、夜の舗道をただ普通に歩いて帰る。