B先生のバレエの稽古を受けに行く。先生曰く、バレエを子供の時から習っている方の多くは、外国人コンプレックスに陥るのだそうだ。長い足や高い鼻、きびきびした自己主張のある動き。高みを目指していくと、肉体自体の問題に辿り着くのだろう。物事は続ければ続けるほど、方程式がどんどん、ややこしくなる。どんな訓練にも迷宮が待ち構えている。だからといって、迷宮をくぐってみるより他、どんな道があるだろうか。初心にかえるつもりでいても、初心にはなれない。そうして、最初の頃は楽々書けたのに、とか、怖いもの知らずの方がうまく出来た、とか、そういう、存在しなかった満ち足りた時間を、空想するようになる。
原稿が上手く書けなくても、字を長く続けたから、必然的に迷宮におちたと言えない事もない。うまくいかない日が続いて苦しい。
原稿が上手く書けなくても、字を長く続けたから、必然的に迷宮におちたと言えない事もない。うまくいかない日が続いて苦しい。
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ストレッチも、バレエも、続けていると書き言葉とは違う暮らしになる。運動が習慣になると、心臓の強さが変わってくる。苦痛を訴える自己を敵と見なすさばさばした心が育ってくる。弱肉強食の価値観になる。感じたことをいちいち文に置き換える必要がなくなる。
字を書くという動作は、心臓の鼓動と正確に同調して、その人だけのテンポで刻まれる気がする。バレエ等をやっている時は、心臓の鼓動は早鐘のようだから、字を並べる速度とあわない。字は単語になって、ぱっぱっと千切れるから、のろのろと字を考えている暇がない。文章には向かない。
今日はストレッチ教室で、どうしてこれって字にならないんだろうと考えながら踊り、昼からは電車に乗って上野駅へ行った。長い地下通路の果てに、誰もお客さんのいない端のぽつんとした部屋で、無事落としたカードを受け取ることが出来た。
字を書くという動作は、心臓の鼓動と正確に同調して、その人だけのテンポで刻まれる気がする。バレエ等をやっている時は、心臓の鼓動は早鐘のようだから、字を並べる速度とあわない。字は単語になって、ぱっぱっと千切れるから、のろのろと字を考えている暇がない。文章には向かない。
今日はストレッチ教室で、どうしてこれって字にならないんだろうと考えながら踊り、昼からは電車に乗って上野駅へ行った。長い地下通路の果てに、誰もお客さんのいない端のぽつんとした部屋で、無事落としたカードを受け取ることが出来た。
昼過ぎに上野駅着。I駅まで電車を乗り継いで、改札前に来たところで娘のSUICAカードを紛失した事に気がついた。いつ落としたんだろう、とぼんやり考える。いつなのか判らないから無くしている訳で、多分羽根が生えて上野の駅を飛んでいったのだろう。あちこちのポケットをまさぐって、鞄の中身を全部床に並べる。娘は悲しそうに私の顔を見ている。
紛失届を出す為、「お忘れ物承り所」へ行ってみたら、簡素な作りのテーブルに駅員さんが一人坐っていた。一応届け出は聞くけれど、出てこなかったら警察に相談して下さいとのこと。奥のスペースには、忘れ物が集結していて、服、財布、子供の玩具、ハンカチ、単行本などが無造作に転がっていた。
再発行にもお金がかかるので、出てくる可能性に賭けて明日まで待つ事にした。カードはお金と同じだから、拾った誰かの手が買い物をしている所を想像する。悔やむなら残り時間をしっかり過ごそう。承り所を出たら、娘がそっと手を伸ばしてきた。娘の手を握って、大丈夫、カードがなくても家に帰れるよ、と教えたら、ほっとした笑顔を見せた。
紛失届を出す為、「お忘れ物承り所」へ行ってみたら、簡素な作りのテーブルに駅員さんが一人坐っていた。一応届け出は聞くけれど、出てこなかったら警察に相談して下さいとのこと。奥のスペースには、忘れ物が集結していて、服、財布、子供の玩具、ハンカチ、単行本などが無造作に転がっていた。
再発行にもお金がかかるので、出てくる可能性に賭けて明日まで待つ事にした。カードはお金と同じだから、拾った誰かの手が買い物をしている所を想像する。悔やむなら残り時間をしっかり過ごそう。承り所を出たら、娘がそっと手を伸ばしてきた。娘の手を握って、大丈夫、カードがなくても家に帰れるよ、と教えたら、ほっとした笑顔を見せた。