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人間になればよかった...
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食べる予定だった豆腐を食べそこねた。豆腐をじっと見る。賞味期限は今日までだ。人差し指をくの字に曲げて、クリーム色の表面をずぶりと突き刺した。指は気持よく下まで落ちて、まな板の上で止まった。しばらく指をそのままにしていた。豆腐を苛めてみて、自分的に得ることは何もなかった。明日までは食べられるだろう。
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相棒は毎日撮影に出かけていく。パジャマを脱いだままだ。娘は毎日学校に出かけていく。パジャマを脱いだままだ。わたしはそれらを拾い上げ、裏返しにして、洗濯機のスイッチを入れる。服が回転し、水槽の中を水が吹き出す。回転するドラム内で服が暴れている。家族とはお互いの欠点を許すことだ。それがなくなったら、ただ人と同じ部屋にいるというだけの気がする。それがなくなったら、家事だって単なる便利屋と変わらない。
B先生の教室でストレッチを習う、バレエの動作も少し習うが、最近はやればやる程すっきりしない気持が残る。出来ない部分が辛い。自分のありように不満だ。とてもとても不満だ。画家岡本太郎がこんな事を著書に書いていた、下手ならなお結構、下手なら、むしろ下手こそいいじゃないかと。自分はこの言葉にとても励まされる。岡本氏は簡単に考えろと言っているのではなく、意志を賭ける勇気を勧めているのだろう。勇気を出し惜しみしてはいけないのだ。
夜になると変になっているから、昼間の明るい時間に机に座った。今日は快晴、うす青と灰色の涼しげな空だ。遠くで木々の頭だけが見え、枝の格好が静止したまま天を差している。相棒と学生達の撮影は今日が初日だった。徹夜で一行書くのに皆で悩んでいたあのシーンを撮影している頃だろうか。
家事を片付けた後、緑の看板のコンビニに出かけて履歴書を買った。アルバイト先をキシタケくんから紹介してもらったので、近日面接をさせてもらう予定だった。買う前から不安にかられて、じっと袋に入った紙を見ていると、書くべき項目が何もなさそうなことに気が付いた。人に信頼してもらえるかは妖しいものだ。
外は真暗で風が吹いている。カーテンがまくれて、女の人のスカートのように膨れている。風がとても冷たい。白壁には、貼っている物の影などが浮いている。
原稿は朝に無事送ることが出来た。
今夜も日記が書けない。独り合点して、悲しみや苦しみを綴るより、何も判らないままに正直に書くしかないのではないだろうか。本当に他に道はないのだ。ほんとうにありのまま苦しみ、矛盾を目の前にして書くしかない。他に何の道もない。また生き方もない。
原形を留めないほど変わっていくのなら、それを喜びたい。時間とともに結論が変わっていくのなら、それも喜びたい。大事にしてくれた人は確かにいたのである。出来る限り、人に心配をかけない人間になろうと思う。
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